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しばらく巨人は不動のまま佇んでいた。数秒すると安心したようにゆっくりと顔を正面に戻し、ゆっくり、ゆっくりと再びズンズンと歩みを進めた。
息を殺していた俺も巨人の驚異が過ぎ去ると、「はあああぁぁ〜〜」と深い安堵のため息をつく。俺は過去にも何度か一般人を対象にドッキリめいた事をしていたが、その時の緊張感とは種類も訳も違った。命のスリルと危険を隣り合わせにした撮影は、他の何にも代え難いものがあった。
俺はその後も様々な他YouTuberの動画企画でドッキリやサプライズに関するコラボ動画に出させて貰っているが、画面越しにでも伝わる緊張はこれを越えるものは存在していない。
「オい……、ュキさま、ダれダ?」
安堵したのも束の間だった。俺の背後から聞き慣れない声がした。
「ぅぼほぁッ!?」
この場には、俺と巨人と声を除けばここまで誰一人存在していなかったはずだ。俺はまたも情けない叫び声を上げる。
「オちつケイて、聞ケ。ュキさま、ダれダ?」
映像は確かに彼を捉える。人間に似て、どこか人間とは異なる外見・服装をした男性のようだった。“男性”だと定義したが、あくまでも俺から見て、声のトーンや低さ、外見の特徴等を総合的に判断した感覚である。人によっては「女の子かもしれない」とするコメントもあった。続けて「それなら推せるから、そうであってくれ!(願」とも。
「俺はシズマ流って言うYouTuberだ」
「ゆーチゅーばー? ナニだ、ソれハ?」
「今もそうしているが動画を撮る人だよ。知らないのか?」
「しラヌい」
俺は彼を同じ人間だと思って接している。YouTuberを知らない無知な人だと思った。
>異界駅に居たから、異界人ではないか?
そう言う呼び方も出来るが、ぶっちゃけると俺としては彼はどうでも良かった。写っていたのだから何か有ると思って残しておいただけだった。
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