あるじ

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わたしは今回借りたのがとても気に入って、しばらくはこのままにしておこうと決めていた。そうと決まればあっせん屋のところに行って「しばらくこのまま借りておこうと思う」と言わなければ、またすぐに期限になって、違うのを連れてきてしまうから、早いうちがいいと思って、こうして時間を作って、いつもの場所にやってきた。 法律なんかの決まりごとには興味のないあっせん屋は、こうして「あるじ」であるわたしに、あのかわいいのを貸し出すのも非合法なもので、もちろん連絡先なんかはわからない。奴は痕跡を残さないから、前に会った、決まった場所に、運に任せて何度か足を運ぶしかない。それでもいつかは会えなくなるかもしれないという心配はいつもある。なんせ奴のやっていることは言葉の通じない人間との口約束だから、この時点で契約は成立していないと言っていい。 それでも今までやってこられていて、わたしのように何度も利用したいと願うようなのがいるんだから、奴のやっていることは成果をあげているということだ。 だけど、今回ばっかりはもう、罠にでもかかって、多くの仲間たちとどこかへ放り込まれたか。それとも熱心な目をした人たちに自分「あるじ」を探してもらっているのかもしれない。 それくらいに、何度の晩かここに足を運んでも、奴には会えないままだった。
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