あるじ

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あくびをしてその一人語りを聞いているのも悪くはなかった。お日様が出ていて暖かければ眠ってしまったかもしれないけれど。幸いにも奴に会うのは夜の、それも真っ暗になった時だったから、眠気を誘うような陽気は暮れ、ただただ冷たい車の上はちょうど目も冴えて一言一句、漏らさずにわたしの耳へと吸い付いてくるようなのだった。 人間ていうものが、全部が全部、俺たちを自分の家に連れて行って、飯を食わしたり、撫で回したりして一緒の布団に入れたいと思わないのも、これでわかるよなぁ。ただ、俺たちが「あるじ」になって、かわいがってもらいたいっていう人間もいるっていうのは、なんの不思議もないことだ。 お前みたいに、人の家に暮らすのなんてごめんだよ、でもあれのかわいさを知ってしまったら、もう前には戻れないっていう奴を俺はたくさん知ってるよ。 だからさ、俺に声をかけたら「あるじ」に会えると知ってる人間は後から後からやってくるし。お前はこうやって「あるじ」になるのがやめられないんだろう。
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