幼馴染の策略

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幼馴染の策略

――そうなの? え、待てよ。 「じゃあまさか、さっきのが初めてのエッチ!?」 俺の言葉に愛生緒が恨めしそうに睨んできた。 「そうだよ。それなのに……それなのにこんな……」 殺風景な仮眠室、散らばる衣服、愛生緒の手首にはネクタイで縛られた跡。 最悪だ――やっちまった。俺はなんてことを……! 申し訳ないと思う半面、愛生緒がまだ誰にも触られてなかったとわかって俺は内心小踊りしたいくらいだった。 ニヤけそうになる顔を引き締めつつ言う。 「すまない。俺が全面的に悪かった。だけど、お前も俺が好きならもうちょっとこう、わかりやすい態度取るとかしてくれたら……」 「したよ」 「え? してねーよ」 「だって、僕が成人して初めて飲んだお酒で酔ったふりして虎太郎の部屋に泊まっても、おでこにキスしかしてくれなかったじゃん!」 え~! あれ酔ったフリだったの!? 本当は唇にキスしたかったけど、断腸の思いで匂い嗅ぐだけでおでこにチューして我慢したのに!? 「しかもヒート直前に気づかないふりでフェロモン攻撃仕掛けても、抑制剤無理矢理飲まされるだけで放置されたし」 ああ……あったあった。あのときは理性が何かを超越して悟りを開いたと俺は思ったね。我慢した自分を褒めまくった記憶がある。甘い匂いをさせながら俺に抱きついてきた愛生緒を思い出しながらその後何度自分を慰めたことか。 「いろんな人と付き合ってるのに、僕があんなにアプローチしても虎太郎は手を出してもくれなくて……きっとこのまま他の女の子か男オメガからお嫁さんを選ぶんだと思ってた」 愛生緒が悲しげに俯いた。 「選ばねーよ。つーか今まで適当な相手と流れで付き合ってただけで……割り切った関係ばかりだったよ。そんな心配いらないだろ」 「だって虎太郎モテるから……」 「別に俺はモテてねーよ」 「モテるよ。普通にしてればね。虎太郎は優しいし、かっこいいし。何でも出来て頼りになるし。高校のときも虎太郎は卒業した後なのに虎太郎先輩虎太郎先輩ってみんな慕っててさ」 「え、そうなの?」 知らなかったんだが。 「だから僕、虎太郎がこれ以上モテないように噂を広めてた」 「……は?」 うわさ? 「虎太郎先輩はかっこいいけど、足が臭いとか」 「はっ!?」 「虎太郎先輩は熟女モノの動画ばかり見てるとか」 「お、おまっ――!」 「昔好きな子のリコーダー舐めてたとか」 「ば、ばっか、お前。そ、そんなことするわけねーだろ!?」 俺は最後のリコーダーの件だけは身に覚えがあったため冷や汗が出てきた。 「わかってるよ。虎太郎はそんな事しないって」 「お、おう。わかってるならいいんだよ」 ふー、あぶねえ。俺が小学生の時愛生緒のリコーダー舐めたのバレてたのかと思ったぜ。 「あと、虎太郎の初体験を奪った家庭教師の女はおじ様にお願いして辞めさせてもらった」 「え!? 嘘」 そう、俺の初体験は家庭教師のお姉さんだった。あれは確か中学三年の時だったか……。受験間際なのにお姉さん突然辞めちゃっておかしいなと思ってたんだよな。 「ホントだよ。だって、虎太郎は僕のものなのに……すごく悲しかった」 「そうだったのか……なんかごめんな」 つーかその時愛生緒はまだ小6だよな。なんでそんなこと知ってるんだ? 「僕がどんなに気をつけてても、虎太郎はカッコいいしアルファのオーラすごいからすぐに女の子や男の子のオメガが寄ってきて……この前付き合ってた受付の子を諦めさせるの大変だった」 「え?」 先月まで付き合ってた受付の女の子は、俺とデートに行こうとすると胃が痛くなると言って別れることになった。 こいつ、あの子に何言ったんだ? 俺は怖くて聞けなかった。 「あと、僕と付き合ってるって言いふらしてた男たちは皆この会社――というか虎太郎に楯突こうとしてた人だよ」 「どういうことだ?」 「横領しようとしてた人とか、虎太郎にハニートラップ仕掛けて操ろうとしてた人とか。そういうの見つける度にそいつを辞めさせるために近づいてたんだ」 知らなかった……。 「優秀かよ」 「なのに、僕が男と遊んでると思ってたなんて酷い」 涙目の愛生緒を見ていたら胸がギュンギュン締め付けられた。 俺は愛生緒の頬にキスした。 「ごめんな、俺がビビリだったから……」 「うん。ほんとにね。何でそんなヘタレなの虎太郎は」 「あ、あのなぁ。お前綺麗な顔してるんだからそれに合うようにもうちょっと優しい言葉選びは出来ないのか?」 「へへ、ごめんね。虎太郎にだけだよ」 そう言って俺の肩に頭を擦り付けてくる愛生緒が可愛くて仕方がなかった。またフェロモンの香りが漂い始める。 「大好き。お願いぎゅってして」 あああああもうダメだ。 何でこんな可愛いんだよ。何言われても許しちゃうね。 俺は愛生緒を思い切り抱きしめた。そしたら怒られた。 「く、くるしい……虎太郎の馬鹿力!」 「あ、ご、ごめん」 「ねえこんなとこじゃなくて虎太郎の部屋で続きしよ?」 「ああ、でもそろそろ帰らないと親父さん心配するんじゃないのか」 「大丈夫。今夜は虎太郎のうちに泊まるって言ってきた」 「え?」 愛生緒は綺麗な顔でにっこり微笑んだ。 「明日から一週間僕も虎太郎も仕事休みにしてるから」 「は?」 「ヒート休暇だよ。あとは虎太郎がパートナー休暇の申請書に判を押すだけになってるからね」 「うそ……」 「会議の予定はちゃんと調整済みだから安心してね。さ、帰ろう」 呆然とする俺に愛生緒がシャツを着せ、襟元を正してくれた。ギュッとネクタイを締めながら愛生緒が言う。 「もう離さないから覚悟してね、虎太郎♡」 俺は女王様の策略にまんまとハマってしまったようだ。 〈完〉 ーーーーーーーーー 最後までご覧いただきありがとうございました! 美人秘書ものを書きたかった……というお話でした! 6/13 スター特典に愛生緒視点追加しました〜
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