キレた俺

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キレた俺

「大学生の女の子と、卒業次第結婚する!?」 「はい、そうですが」 「なあその敬語やめろよ。業務時間終わってるんだからタメ口で良いだろ」 そんなことより、結婚相手だ。俺は焦って早口にまくし立てた。 「愛生緒、いつの間に女の子と付き合ってたんだよ」 「虎太郎には関係ないでしょ。僕のことなんて興味無いんだから。今までそんな話聞いてきたこともないくせに」 彼はそっぽを向いて唇をとがらせた。俺にしてみれば怒った横顔すら可愛いらしい。その唇にキスするのを想像してしまいそうになって俺は慌てて妄想を頭から振り払った。 「それは……だって、お前がいつも男にばっか追いかけ回されてるから……」 「僕にだって好きな人がいて、結婚したいって思ってるんだ。好きでもない男たちに言い寄られても気持ち悪いだけだよ」 それはたしかにそうだ。男に言い寄られるのは彼の望んだことではない。 しかし、「彼に勝手に恋心を寄せている男」という点では俺と彼らに違いは無い。 俺は愛生緒の発言に胸をえぐられて再起不能になりかけた。 ――気持ち悪い、か。 そう、俺は近所の兄ちゃんに過ぎない。そんな男が自分にキスする妄想(しかもただのキスでは済まない)や、押し倒して服を剥ぎ胸を舐める妄想や、引き締まった尻にアレをどーのこーのしてしまう妄想をしていると知ったら……? 愛生緒はびっくりして気持ち悪さに吐いてしまうかもしれない。 ――が! しかし。俺は愛生緒に惚れたことのある全男を代表し勇気を振り絞って言った。 「き、キモいって、さすがにひどくねーか?」 「酷い? 何が」 「何がってー……その、言い寄ってくるのが気持ち悪いって、そこまで言わなくても~……だってその男(俺)もさ、愛生緒のことが好きなんだよ? 可哀想じゃね?」 「は? マジで無理」 ピシャリと言われて俺はビンタを食らったみたいに身体がよろめいた。 「あのなぁ、愛生緒。一応男にはプライドってもんがあってだな」 「そんなの知らない。僕は好きな人にだけ言い寄られたいし好きな人だけに愛されたいの」 もーうちの秘書くん怖いよー! でもこのワガママなところがくっそ可愛いんだよ。 いやいや、ふざけんな。この跳ねっ返りをぽっと出の女子大生なんかに渡してたまるかよ。 つーかこんなわがままで女の子と結婚できるわけないだろ。俺が根性叩き直してやる。 「愛生緒、ちょっと付き合えよ」 「え?」 俺が低い声で言うと愛生緒がポカンとした顔でこっちを見た。俺はそんな愛生緒の腕を引っ張って、執務室の隣に設けられた仮眠室に入った。
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