暴走する俺

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暴走する俺

後ろ手にドアを閉めて鍵をかけると愛生緒が不審そうな顔をした。 「虎太郎? 何、どうしたの?」 「何だよ、珍しくビビってるのか? さっきまでの威勢はどうしたんだ。アルファをバカにしておいて、覚悟できてるんだろうな?」 愛生緒が息をのんだ。 あれ? もしかして俺今愛生緒より優位に立ってない? 超レアな展開じゃない? 「脱げよ、愛生緒」 「え、何?」 「服を脱げと言ってるんだよ」 頭にはてなマークが見えそうな顔で愛生緒はスーツのジャケットを脱いだ。 彼がそれをハンガーに掛け終えるのを待たずに、身体を簡易ベッドに押さえつけた。 「わっ、何するの?」 「大人しくしろ。生意気なお前が悪いんだからな」 「な……だからなんなの?」 「JDなんかと結婚させるわけねーだろ。お前は黙って俺の(つがい)になっとけよ!」 目を見開いた愛生緒が何か言う前に俺は彼のシャツの襟をくつろげ、ネクタイを引き抜き手首を縛る。 「イタタタ! ちょ、ちょっと虎太郎!?」 愛生緒が突然のことに慌てている。 「うるさいぞ。お前が俺に番にしてくださいってお願いできるまでこれは解いてやらないからそのつもりで」 「は、はあ!?」 シャツの前をはだけられた愛生緒が頭上に両手をまとめた状態でベッドに縛られている。 ハァハァ……やばい、妄想がリアルに……。 これは俺がよく妄想する愛生緒のエロいシチュエーション10選に入っている殿堂入りの眺めだ。 彼の大きな目が俺を見上げる。 「虎太郎、これは何の冗談? やめてよ、笑えないって」 「この期に及んでまだそんな口がきけるんだな。自分の立場、わかってるのかよ」 「立場って……虎太郎こそ、会社でこんなことしておじさんに怒られても知らないよ」 ちっ。親父のことを持ち出すとは――。 「うるさい。触るぞ」 「へ?」 俺は無防備に晒された彼の胸元に手を伸ばした。子どもの頃は一緒に風呂に入ったりしたし、身体を洗いっこしたこともあった。だけど、成人してから愛生緒の肌をこんなに間近で見て触るのは初めてだった。 ――うそ何この手触り、シルク? 俺の筋肉質でキメの荒いゴツゴツした肌とは全く違う触感だ。滑らかで、手のひらに吸い付くような……。 「虎太郎、鼻血出てるよ」 「嘘だろ!?」 「――ウソ」 慌てて鼻の下を押さえた俺のことを見て愛生緒が笑っている。 ――くそ。舐めやがって……! 俺は愛生緒のスラックスを引きずり下ろした。 「うわっ」 え、何だこれ。俺のと全然違う……。すねに毛は生えてるけど色が薄くて目立たないし、すべすべしてる――。女の子とは違って骨格は男性的だが、細いのになんとなく節々が優しい丸みを帯びている。 俺は思わず彼の脚を撫でた。足首から膝、そして脚の付け根まで指先を滑らせると、愛生緒が恥ずかしそうに身をよじった。 「あ、やだ……」 ハッとして彼の顔を見上げると、彼は頬を染めて困ったような顔をしている。 「もうやめてよ、虎太郎……」 「いや、やめない」   俺は生唾を飲み込んだ。
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