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覚悟しろってどういうこと?
「こたろう……」
「ん? 大丈夫か愛生緒」
「噛んだ……? 本当に噛んだの……?」
「ああ、噛んだよ。痛くないか?」
俺の返事を聞いて愛生緒が両手で顔を覆った。
「ぅぅっ……ひっく」
え? 泣いてるのか!?
「あ、愛生緒?」
俺は冷水を浴びせられたように正気に戻った。
やばい、やばいやばい!
「愛生緒ごめん! 痛かった――じゃなくて、嫌だったよな。本当にごめん!」
「ぅう……」
「俺、俺は……」
俺は一生愛生緒を幸せにするつもりだったけど、愛生緒にとってはそんなの知ったことじゃないだろう。好きでもない奴に無理矢理番にされてそんなこと思われても迷惑なだけだ。
「わかった、病院行こう! 中に出しちゃったからまずアフターピル貰おう。首は、手術でもなんでもして……」
「ばかぁ……」
「悪かった。俺が馬鹿だったよ」
愛生緒が手をどけて涙を浮かべながら俺を睨んだ。
「違う! いい加減にしてよ!」
「へ……?」
彼は身体を起こして俺の胸に額を押し当てた。
「なんでそんなヘタレなの? 僕の事好きで襲ったならちゃんと責任とってよ」
「あ、だから病院に……」
「違うでしょ。覚悟しろって言ってるの!」
愛生緒はキッとこっちを睨んで俺にキスした。
え? なに、覚悟しろって――どういうこと??
これは夢なのか?
まさか愛生緒の方からキスしてくれるなんて――……じゃなくて。
「愛生緒……どういうことだよ」
「虎太郎がいつまでも僕を無視するから女の子とお見合いしたんだ」
「え?」
「ねぇ、本当に僕を番にしてよかったの? 虎太郎は僕のこと本当に好きなの?」
「好きだよ。好きに決まってる。番にして、俺が愛生緒のことずっと幸せにするって心の中で決めてたよ。なあ、だから婚約なんてやめろよ」
「やっと……やっと言ってくれた……」
愛生緒は顔をくしゃくしゃにして「嬉しい」と言いながら涙を流した。
どうやら、番にされたのを嫌がって泣いていたのではないらしい。
女子大生の見合い相手ってのは本当にいて、あとは愛生緒の返事待ちの状態になってるそうだ。
「今日婚約のことを話しても虎太郎が僕に告白しないで逃げてたら、本気でその子と結婚して秘書も辞めるつもりだった」
「まじかよ……!」
あぶなかった……。
「それにしても、そっちが俺の事好きならそうと言ってくれればいいだろ」
「言えるわけないでしょ! オメガの方から好きだの愛してるだの言うのは恥ずかしいっておばあ様に散々言われてきたし」
はぁ……? いつの価値観だよ……。
「そもそもお前がこんな小細工しなくても俺はずっとお前のことしか好きじゃないし」
「そんなの言ってくれないとわからないよ。だってこれまで虎太郎は何人と付き合ってきた? 僕が知らないとでも思ってるの?」
俺がムキになって言い返す。
「それはお前だって同じだろ! いろんな男と付き合ってはポイ捨てしてきたじゃねーか」
怖くて好きだなんて言えなかったんだよ。
すると愛生緒はムッとした表情を見せた。
「何言ってるんだよ。僕は誰とも付き合ったことなんてない」
「え? だって、いろんな奴と噂になってたじゃん」
「だから、向こうが勝手に付き合ってるって言いふらしてただけ。僕は彼氏も彼女もいたことない。キスだってしたことなかったんだ! それなのに、こんな雰囲気も何もない簡易ベッドに縛られて無理矢理……」
愛生緒は唇を噛んで悔しそうにしていた。
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