変な男

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「節電、か」 温暖化が進んでいると言われているけれど、実際はどうなんだろうと梅音(うめね)は首を傾げる。 今年の夏は冷夏だったし、10月の始めであるのに、今日は長袖のTシャツ一枚でも暑いくらいだ。 「この冬は暖冬だって予報だけど、、、」 ─ いや、ブレたら駄目だ。 生前、祖父からそら(・・)で言えるほど聞かされてきた話が頭の中を巡った。 ふと見ると、 新しい掲示物の横には参加申し込みのなかった防災訓練呼びかけ広告がある。 「ついでに外しておこう」 会長さん曰く、各々の家が耐震構造は当たり前で、防火に関しても最新の設備を導入していると言う。 だからこそ防災委員の高橋家も、『やるなら梅音家だけでどうぞ』と佐々木婦人を通して連絡してきたわけだ。 消化器の使い方や避難場所の確認など、この町の住人には不要なことだと梅音は今更ながら思った。 「── 節電のお知らせはこのあたりでいいかな」 独り言を呟きながら全体を仰いで見る。 古い掲示板はやたら大きく、また高さもあって梅音の背丈では上まで手が届かない。 したがって掲示物が多い時は、わざわざ踏み台を持って来なければならない始末だ。 既存の掲示物を最下部に横並びにして、きちきちに詰めてから節電のお知らせを板にあてた。 どう見てもバランスが悪いのだが、 過去、町内の誰か一人でも立ち止まり、この掲示板を見ていたことなどないのだから気にすることはない。 「会長さんに話して今後の訓練自体、続けるか検討してもらわないと」 梅音は大きく一度ため息をつき、気を取り直して(なら)した紙にピンをあてた。
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