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「丑蜜さん、鯉は食べられますか?」
「鯉?」
「ええ。
一昨日から『鯉こく』という長野県の郷土料理を仕込んでいるんです。
抵抗がなければ、今から別に一匹さばいて『洗い』も造ろうと思うのですが」
「是非頂きたいね。
しかし、、、珍しいことするんだな君は」
「祖父の大好物だったものですから。
僕が小さい頃はよく長野県に足を運び、作久鯉を買ってきてました。
そのうち養殖に目覚めて家の裏に生け簀を造ってしまったので、亡くなった今も引き継いでいるんです」
「それはそれは」
「一週間前から泥を吐かせてますので臭みはないですよ」
「鯉を食するのは久しぶりだ。
その上『作久鯉』とは期待大だな」
「ですが活き締めにするには力と度胸が必要で。
タイミング良く手伝いを申し出て貰ったので、少しだけ好意をお借りします」
『力と度胸が必要』だと言って笑った虎太郎は、大きめの出刃包丁を丑蜜に持たせると、勝手口から出て家の北側にある直径五メートルほどの石造りの囲いに案内した。
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