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囲いは生け簀の役目を果たしており、手前には少し高い位置にコンクリートでできた水槽を据えていた。
途切れることなく流れ込む水は地下から汲み上げているもので、それは先ず水槽に、次いで生け簀に落ちてゆく。
コンクリートの槽の横には蛇口とシンク、小さな木の台も設置してあった。
外灯がない為、虎太郎が手にしたソーラー式ランタンの灯りだけでは池の中まで見えない。
「ここで捌くのか?」
「手探りなら気絶させて腹を掃除するまでですけど、、、灯りがあるので骨と皮取りまでしちゃいます」
側でランタンをかざしてくれるよう丑蜜に頼んだ虎太郎は、勝手口の横に立て掛けてあるタモ網を取ると慣れたようにコンクリート水槽へ突っ込み、その先を左右に動かして一匹の大きな鯉をすくい上げた。
「水が跳ねますので一旦下がってて下さい」
そしてタモの中でビチビチと跳ねる鯉のエラに指を入れ、両手でしっかりと押さえた後、丑蜜の方に振り返った。
「丑蜜さん、その出刃包丁の嶺で鯉の頭を叩いてもらえますか?」
「力と度胸の出番ということか」
経験ある者か、慣れた人間でなければ躊躇する作業である。
虎太郎に関して言えば活魚を締めること自体未だに慣れず、また力も足りない為に祖父が死んでからというもの、生け簀の鯉はただの観賞用になっていた。
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