うめね君がいれば大丈夫  前編

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時刻は午前9時、 竹内が鳴らしたインターホンの音量は思いの(ほか)大きく、家の中から背の高い落葉樹が乱立する庭を経て、二人の所まで響いてきた。 すぐに、 『はーい』という覇気(はき)のある声が家と門との中脇に立つ銀杏(いちょう)の幹裏から応じ、次いでパタパタと急ぐ足音が聞こえた。 現れた青年は、門前に立っているスーツ姿の丑蜜(うしみつ)を見て一瞬怪訝な顔をし、次にインターホンの陰から顔を出した竹内に気づくと、片足を前に出した状態で歩みを止めた。 「、、、竹内さん」 庭仕事でもしていたのか、インディゴカラーの長袖Tシャツに僅かな草屑を散らし、下は洗いざらしのデニムパンツ、手には軍手をはめている。 「リオントラストの竹内でごさいます。 早い時間からすみませ〜ん」 開発部の者らに同行し、もう何度も通っている竹内は梅音にとって『深い溜息をもたらす男』となっているらしい。 大きく息をついた後、桜色を帯びた張りのある唇が一度結ばれ、胸の前で腕が組まれた。 「何度来てもらっても山は売りません、お引取り下さい」 サンダルを突っかけ、精一杯肩を張る梅音は華奢ながら受け答えはしっかりしている。 しかしその立ち姿がどこか不自然に見えるのは、梅音の腕の組み方に拭いきれない背伸び感が表れているからだろうか。 「今日は社の役員を連れて参りました。 ぜひ話しを、、、」 「誰と来て頂いても返事は同じです」 竹内では埒があかないと踏んだのか、梅音は黒々としたつぶらな瞳を『役員』と紹介された丑蜜に向かって据えた。
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