179人が本棚に入れています
本棚に追加
───
「竹内、仔猫への特殊なフーディングについて何か知ってることあるか?
月齢は、、、そうだな2、3ヶ月と言ったところだ」
金曜の午後、
エレベーターで乗り合わせた丑蜜から徐に訊かれ、竹内は自分より頭一つ背の高い丑蜜を見上げた。
丑蜜は階数表示を眺めながら、しかし何か思案している様子だった。
「仔猫、、、」
仕事時は丑蜜からの質問に対し『どうして』などと訊いてはならない。
知っているか否かと問われれば、まずは『はい』か『いいえ』で答えるのが暗黙のルールだった。
竹内は訊かれている内容に耳を疑うも、それはさておき、反射的に頷いて言った。
「はい。
まぁ二つ三つくらいでしたら」
目的階に到着し、開いた扉にさり気なく添えようとした手を丑蜜が遮る。
「ではその二つ三つを教えてくれ」
二人を乗せたエレベーターは再び扉を閉じて下降した。
が、その直後不意にガタンと止まり一瞬だけ照明を消した。
「どうしたのでしょう」
すでに明るさを戻していた天井あたりを竹内がぐるり見回す頃にはエレベーターは何事もなく動き出している。
「点検はしてるはずだがな。
電気系統の症状のようだから危険は無さそうだが、念のため総務部へ連絡を入れておくように」
「はい」
「それで、猫の件だが」
「失礼しました。
参考になるかはわかりませんが」
既に家庭を築き、妻と就学前の一人娘を溺愛する竹内は、よく家族で動物関連の動画を観ていた。
その中で特に感心したのは、メス犬の乳を飲む仔猫の映像や、飼い主の指を介してフードを食べる、或いは仔猫が自らウェットフードを肉球につけ、手を舐めるようにして食べるといったショート動画であった。
それらを伝えた後、餌やりとは少し違うと思ったが、『母猫の乳首代わりに、飼い主である人間の耳たぶを吸って安眠する光景は珍しく微笑ましいものでした』と付け加えて笑った。
「そうか、、、」
解決にはなっていないのだろう、丑蜜は眉間に溝を作り怪訝な顔で首をひねっている。
そこで何故か竹内はふと、梅音虎太郎の顔を思い浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!