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「ペットコーナーで商品入れ替えがあって、旧パッケージの物を安くさばいてるの。
それでよかったらどうかなと思って。
社員でも縦割りのところ、梅音君には特別に半額!」
見ると段ボールの脇には
『国産鶏肉100%使用24缶入り
幼猫に必要な天然の栄養素を豊富に添加』と表示がしてあった。
それが二ケースある。
「本当ですか? 是非!」
「今日も急ぐんでしょ?
伝票はこっちで書いとくし精算は次シフト入るときでいいから」
「ありがとうございます」
段ボールを受け取り、礼を言うと
女性の主任は『そうだ』と眉間に皺を寄せた。
「最近急な停電が多くてその度にレジでの決済とか発注に支障が出てるのよ。
今後は計画停電もあるみたいだし。
念のため来週にでも店内の予備電源についての説明と緊急時の対応研修をするから日にち確認しておいてくれる?
改めて店長から連絡あると思うけど」
「はい、わかりました」
夏以降、日中に何度か停電があった。
しかしどれもほんの数秒、数分のことで、目立ったトラブルは出ていない。
電力の逼迫と囁かれる昨今でもあり、梅音は節電の為にテレビを見ることがなかったが、ネットニュースでは十数年おきに起こる太陽フレアの爆発が関係していると伝えていた。
『電気が使えなくなると困りますよね』
幾度となく、また誰にともなくそう声をかけてみたが、皆一様に他人事として捉えており、返事はせいぜい『落ち着くまでは不便よね』くらいで真剣に答えてくれる人はいなかった。
主任に太陽フレアについての話を振ろうかとも思ったが、急いでいるのもあったし、不意に荷物も増えたので、今日のところは頭を下げて外へ出た。
「あ」
店を出たものの、降る雨を見て今日は朝も昼も徒歩だったことを思い出す。
時間も時間で空は暗く、小雨程度の雨にはなっていたが、地面のあちこちは大きな水たまりができていた。
傘は諦めて歩くにしても手にある段ボールは濡らしたくない。
梅音は園芸コーナーで不要となった袋を貰って箱に被せると、家に向かって速足で歩き始めた。
キトン用とはいえ24缶が2ケースともなるとかなり重い。
ロッカールームに置いておいて、週明けにでも持って帰ればいいのだろうが、週明けには週明けの大荷物があるのだ。
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