うめね君がいれば大丈夫  前編

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─ 見た目に依らず、そこそこの度胸は持ってそうだな。 喋らずとも威圧感だけで近寄り難いと噂される自分を真っ直ぐ見返してくるあたり、梅音の見た目と中身には多少のギャップがあるようだ。 これまでの経緯を聞き、地主であることを鼻にかける強気で意固地な美青年を想像していた丑蜜は梅音のむしろ、己の整った顔立ちの有り難さ(・・・・・・・・・・・・・)に気づきもしなさそうな、平和的で善良そうな面持ちに新鮮さを覚えた。 『ね、可愛いでしょ?』 振り向いた竹内が丑蜜に向かい、笑いを堪えてそっと口を動かす。 確かに。 はっきりした物言いをするが、梅音のどこを取っても男性的な逞しさは見られない。 竹内が言うところの『可愛い』が適切な表現かどうかは別として、大の大人が二人がかりで脅すのを確実に躊躇(とまど)わせ、真っ当な交渉ですらアンフェアに思わせる何かがあった。 「そういうことか」 丑蜜もまた声なく呟き、やや目を細めた。 これまで開発部の連中誰一人として強く出られなかった理由の一つは、梅音のこの初々しい容姿にあるのかも知れない。 しかし丑蜜にしてみれば梅音は単なる地主以外の何者でもなく、顔がどうであろうと中身がどうであろうと一切の雑念を排除し、押買いに持ち込まなければならない相手だった。 なのだが、 丑蜜は、見るからに温厚な竹内を差し置いて敢えて自分を見つめてくる梅音の意気地(・・・)を鑑み、 見かけに依らず相当な強者であることを認めた上で無闇な脅しをかけるよりもいっそ、懐柔に転じた方が話は早いかも知れないと思った。
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