うめねくんの秘密が知りたい

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俺は 何をしているんだろう ─── 台所の壁をぐるり見回し、電灯のスイッチを探るとシンプルな笠の白熱灯がパッと辺りを照らした。 その横に細いワイヤーがやはり天井から一本、灯りに寄り添うようにして垂れている。 節電でもしているのか、およそ一般的な家庭の台所のイメージとはかけ離れて暗いのだが、ここには当たり前にあるはずの家電が見当たらず、全体的にノスタルジックな雰囲気を(かも)していた。 「古き良き時代の厨房ってところだな、、、」 10日ほど前までは確かにこの家に乗り込み、日を跨ぐことなく土地の買収を済ませる予定だったはずなのだが ── 「箸は、、、ここか。 皿はこれでいいだろう」 骨董品のような食器棚から箸と黒い平小皿を取り出した後、下段にある醤油差しを選んでふと目を馳せると、調味料の並んだ奥にスチールの缶に入ったスパイスが整然と並んでいるのに気が付いた。 ラベルは『ホワイトペッパー』。 一つ取って裏面を見、更にすぐ後ろにある缶を手にした。 原材料を見るとパウダー状に粉砕されたものではなく、胡椒の種子そのままの、いわゆるホールという表示がある。 身を屈めて見れば、一体いくつあるのかと目を見張るほどの本数が棚の奥まで連なっていた。 並んでいるのはホワイトペッパーだけではない。 ブラックペッパーやレッドペッパー、クローブにカルダモン等々、それらもホールで種類毎に10から15本くらい、全てラベルを前にして列を成している。 「まるで店だな」 ─ よほどのスパイス好きなのか、、、 それにしてもこれだけの数を種子の状態で揃えたとなると粉末量としては尋常でないように思えた。 一旦居間である座敷に行き、卓を整えて再び台所に戻る。 次に湯を沸かす鍋を探すべく、流し台の下にある引き出し様の収納を開くと、重そうではあったが、しっかりとした作りの鍋が大きさを変えて各三つずつ重ねられ、やはり整然と並んでいた。 手頃な鍋を取り、水を入れて火にかけてから改めて辺りを見回した。 台所に限らず、玄関や廊下、それから居間。 どの空間にしても本来あるはずの生活を匂わせる物がなく閑散としているのだが、実のところ、物が無いのではなく、梅音が収納能力に長けていて、一つ一つの物品を完全に管理できているからなのではないだろうか ───
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