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「おまたせしました」
丑蜜が振り返ると、虎太郎は既にエプロンを着けて踏み台に乗っており、棚の上から何やら取ろうとしている。
「取るよ。これか?」
そこには見た目からして同じ長方形の木箱が三つ並んでおり、丑蜜は虎太郎の指差した一つを取って手渡した。
それを持って流し元へ行った虎太郎が、箱の手前に付いている取手を引くと、中から茶色い、木片のような物が現れた。
「この箱は削節器なんですよ。
それで、これは鰹節です。
一般的には枯節と言うんですけど、丑蜜さんは見たことありますか?」
虎太郎は丑蜜の前で棒状の小さな塊をゆらゆらと揺らし、ニコっと笑って蓋を取る。
「可愛いな」
目があった途端、無表情で迫る丑蜜の口元が僅かに開いた。
「可愛いですかね?」
虎太郎は丑蜜が削り込まれて小さくなった枯節を見て『可愛い』と口走ったのかと思い、肩をすくめて言った。
「うめね君がだよ。俺を見て笑った」
仕事にしか興味のなかった人間が恋をすると一転して周りが見えなくなると言うが丑蜜は正にその典型だった。
虎太郎に対する己の想いを知り、打ち明けてしまった後は、自らの感情が具体的な言葉となって漏れ出るようになったらしい。
「、、、恥ずかしいので、そういうこと言うの、やめて下さい」
「これまであった胸のつかえがようやく取れたんだ、今後は思うことを好きに言うつもりだ。
、、、なるほど刃が付いている。
この上で節を平らに滑らせると、削られた枯節の身が下に落ちる仕組みなのか」
元来人目を気にするタイプでもなく、一度決めたらブレる性質でないのも手伝い、告白相手の意思がどうであれ、配慮する神経は無さそうだった。
「丑蜜さん、僕はまだ貴方のことをよく知らな、、、」
「早速やって見せてくれ」
丑蜜の催促を受け、虎太郎は仕方なく手を動かし始めた。
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