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「ここは静かで落ち着くが、、、
敷地が広い分、孤独感も増すだろう。
御祖父が亡くなられて寂しくはないのか?」
琉球ガラスに注がれた大吟醸に口をつけながら丑蜜は訊いた。
「祖父はあまり口数が多い方ではありませんでしたから。
それに日々しなければならないことが沢山あって、今も寂しいと思ってる暇はなく済んでます。
飼い始めたばかりの みたらしもいますし」
「そういえば玄関の上がり框に猫缶が積んであったな。
人のことは言えないが、うめね君もやたら買い込む性質なのか」
『ああ』と虎太郎は頷いた。
「猫は犬に比べてカロリーを多く必要とするそうなんです。
あとタウリンが必須栄養素らしくて。
となると手作りが難しいので、いざと言う時の為に買いだめしておこうと思って」
「は、、、まるで有事でも想定してるみたいなことを言うんだな。
君はホームセンターで働いているんだろ?
手に入れようと思えばいつだって買えるじゃないか」
「そうですね、、、今はまだ手に入れられますけど」
それから虎太郎は暫し押し黙り、意を決したように丑蜜に向かった。
「あの、、、丑蜜さんは」
同時にインターホンが鳴った。
二人が壁に目をやると、門前にあった広角カメラからの映像がモニターにパッと映し出されている。
『こんばんはー、梅音さーん』
訪ねて来たのが制服を着た警官だとわかり、虎太郎はすぐさま立って応じた。
「は、はい」
『こちら桜木署の交通課の者ですがー、お宅の前に駐車されてる車の運転手さん、こちらにご在宅ですかね〜?』
家の前に黒塗りの大型車が駐車されていると聞き、虎太郎は驚きの目で丑蜜を振り返り見た。
「丑蜜さん、今日車だったんですかっ?」
それに対し丑蜜は酒の入った琉球ガラスを持ち上げ、しげしげと眺めながら呟いた。
「ああそうだった、忘れてた」
「わ、、、忘れてた、って」
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