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『梅音さーん、ご近所から通報が来てますので、今すぐ移動をお願いしま〜す』
「あ、はいっ。
すみませんっ、すぐ退かしますので」
虎太郎が慌てて返事をすると、丑蜜が立って上着から車のキーを取り出した。
「通報とあれば仕方ないな、行って事情説明してくるか」
「丑蜜さんはお酒飲んでるのでここにいた方がいいです。
取り敢えず僕が対応しますから車のキーを貸して下さい」
「ハンドルは握らないよ。
というか、そもそも違反はしてない。
この家に接面する道路幅は充分あるし駐車禁止の標識もなかった。
停めるに問題ないことを双方確認するだけだ」
「それが、、、ダメなんです。
この御陵町では美観を損ねる行為はしてはならないという暗黙のルールがあって、路上駐車もその一つなんです。
無視すると町会長を巻き込んでの大騒ぎになるし、通報が止まないことは警察も分かっているので、車を動かすまで引き上げてはくれません」
「口は出しても担った仕事はしない。
つくづく勝手な住民達だな」
「大丈夫です、家の北側に使ってないガレージがありますから、そこに入れましょう。
すみませんでした、僕が酒なんか勧めてしまったから。
丑蜜さんがタクシーで来たのだと勝手に思い込んでいたんです」
「いや、俺の方こそすまなかった。
うめね君を前に余程浮かれてたんだろう、車の存在を忘れるなんて自分でも驚きだ。
しかし、、、」
丑蜜は意外だと言うふうに車のキーを弄びながら虎太郎を見下ろした。
「君、免許持ってるの?」
「はい、18の時に取りました。
えっと、、、ただの身分証明書代わりにですけど」
虎太郎は茶箪笥の引き出しから免許証を出して見せ、ポケットにねじ込んだものの、ふと不安そうに丑蜜を見上げた。
「なので横に付いててもらえますか?
車を運転するのは教習所以来ですので」
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