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外へ出た虎太郎は先ず家の裏へ回り、庭の内側から蔦の葉を掻き分け、特大の錠を外して鉄の門を引いた。
「こんな所に門があったのか」
感心しながら前に出た丑蜜が虎太郎の指差す箇所へ加勢すると、ギシギシと音を軋ませ錆びた門が開く。
形が分からないほど這う葉が絡まった錆びた鉄は、真っ昼間に表から目視したとて壁に見えたことだろうし、ガレージとは名ばかりの車一台分のコンクリート面は、ひび割れから這い出た草木でほぼ覆われていた。
そこから表門に回って警察官に謝った後、早速運転席に座ったまではいいが、丑蜜が乗りつけた大型車を操るのは虎太郎にとってかなりハードルが高かった。
何しろ小柄な身では前がよく見えない。
そこで座席の位置直しから始めたのだが、調整方法を訊きながらあちこち触っているうちに、自動で出てきたシートベルトに驚き、その勢いで踏み込み過ぎて唸るエンジン音に声を上げ、丑蜜の手添えを得てようやく車を発進させる始末だった。
『教習所以来だ』と言う言葉の裏付け通り、運転席のシートを最前まで出し、更に高さも最高位置まで上げ、前のめりになって恐々とハンドルを握り締めている。
「うめね君、
肩の力抜いて、もう少し遠くを見ようか」
丑蜜は直立する亀のような姿勢の虎太郎に吹き出してしまいそうだったが、自分の失態で迷惑を掛けている以上、横で呑気に笑うわけにもいかない。
「話しかけないで下さい。
ただでさえこの車大き過ぎるので緊張も倍なんです。
丑蜜さん、そっち大丈夫ですか?
あ、ライト点けるの忘れましたっ
ヘッドライトのボタンはどこですかっ?」
「オートだから気にしなくていいんだよ。
もう点いてるだろ?」
「あ、ああそうでしたね、、、。
ん?
丑蜜さん、今ポーンて音しましたよっ、このポーンは何のポーンですかっ?」
「それはサイドブレーキの、、、」
「あっ、ここっ、ここ見て下さいっ
何か変な表示が出てますがっ」
「君はハンドルとアクセルとブレーキだけ操ってればいいよ、後は俺がするから」
軽くパニックを起こしてる虎太郎には言えるはずもないが、その姿は丑蜜の目にやたらと愛らしく映り、込み上げる笑いを堪えるのに必死だった。
ようやくガレージ前まで来て、
「車庫入れは自動運転に任せよう。
使うのは初めてなんだが、操作方法の確認ができるいい機会だしな。
うめね君はギアをバックに入れ、俺が合図したらブレーキからゆっくり足を離してくれ」
横からタッチパネルを操作すると、車は勝手にガレージへと尻を向けてバックし始めた。
併せて丑蜜も目視で周囲を確認し、車両は数センチの余裕すらない門を通り、コンクリートスペースに きっちりと収まって停まった。
「ふ、、、うぅ」
ほぼ他力ではあったが、虎太郎は
達成感からくる溜息を吐いて天井を仰ぐ。
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