『砦』

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「ははは、、、ミイラか。 ではそろそろ真面目な話をしよう。 今後、梅音家所有の土地買収に関わる全てのことをお前一人で対応してくれないか」 「はい。 それは、、、構いませんが。 何かありましたか?」 「予定していたホテル建設は一旦保留にし、地盤造成のみで再申請を行う。 うめね君は我が社が県及び国からの許可を得たのち、山林の買収にかかる金額交渉に応じてくれるそうだ」 「金額交渉、、、。 ええっ? ま、待って下さい、それでは既に土地を手に入れたも同然ではないですか。 ホテル建設を一旦保留にしただけで納得してもらえたのですか?」 「そうだ。 しかしこの変更を知っているのは一部の役員とお前だけだ。 正式に決定するまで開発部の連中始め周囲には伏せておいてくれ。わかったな」 「は、、、はい」 丑蜜はホテル建設を止めて何を造ると言うのだろう。 一部の役員にも話を通しているのならば、それ以上竹内が何か言える立場でもなく万事解決であったが、それにしても理解し難いのは、あれだけ拒んでいた山の所有権を、梅音が あっさり譲ってくれたことだった。 真面目を絵に描いたような梅音虎太郎が、丑蜜からの恋愛アプローチに絆されたという事は考えにくかったし、丑蜜の梅音への惚れようを見れば、買収の見送りはあっても、話を詰めることなどメンタル的に至難の業ではなかったか。 一体何があったのか。 まさか土地を手に入れた後で用途を元のホテル建設に戻すという、狡猾な手段に出たのでは。 だが、丑蜜は滅多に寄越すことのない、真摯な視線を真っ直ぐ自分に送ってきている。 「一連の手続きを頼んだぞ、竹内」 という言葉と共に。 ─ 違う。 この人は確かに梅音に恋しているものの、己の全うすべき業務を混同させてはいない。 竹内は丑蜜からの信頼を見開いた双方の(まなこ)で受け止め、深く頭を下げた。 「承知致しました。 ここまでご尽力頂きましたからには、以後この竹内にお任せ下さい」 派閥による画策、足の引っ張り合い、嫉妬に羨望がひしめく国内きってのリゾート開発事業という畑に於いて、若くしてここまでのし上がってきた丑蜜(うしみつ) 白夜(さや)。 この特異な男の手腕、そして顕現たる才能を竹内は今、改めて見せつけられる思いだったが、となると益々気になるのは梅音との恋愛事情である。
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