『砦』

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「それで、、、 話は戻りますが、テントとシュラフの用途だとか、仔猫の餌やりに関する謎は解けたんですか?」 「そうだ! 肝心の みたらしの餌やりを見ていなかった。 竹内、よく気が付いたぞ。 早速今夜行って確かめなければ」 椅子に掛けた上着を取り上げ、颯爽と腕を通す丑蜜の前に立ちはだかる。 「いやいや、頻繁は良くないです。 恋というのは押すと引くを使い分けてこそ成就す、、」 「車も置いたままだしな」 「え、、、。 ええっ? う、、嘘でしょう? まさか、あの三億積んだまま車ごと梅音家のガレージに置いて来ちゃったんですか?」 それはあまりにも迂闊ではないのか。 いや、社の未来を切り開く人間とはこんなにも豪胆なのだろうか。 「仕方ないだろ。 停電が解除したところで、『呑んだから泊めくれ』なんて言えるか? キスもさせて貰えなかったのに」 竹内はたった今自分を感動に導いた丑蜜に水をぶっ掛けてやりたい気分だった。 震える唇を噛み締めているうち、丑蜜は既にドアに向かい、大股で歩き出していた。 その背中に宛て、思うにならない上司への苛立ちをぶつける。 「丑蜜さんの気持ちなんかもうどうでもいいですっ。 今すぐ車ごと三億取りに行って、でもって速攻帰って来て下さいっ。 今日中にっ。わかりましたねっっ」 「帰るわけないだろ。 粘るだけ粘って、あの秘密の砦にあるものを見せてもらわなければ明日の仕事にも障る。 あ、役員室( へや )の戸締まり頼んだぞ」 「丑蜜さんっっっ」
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