『砦』

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─── 「、、、十一、十二、、、」 キャスター付きのプラスチックコンポストは虎太郎(こたろう)が家を出てから二時間もしないうちに一杯になった。 バイトを終え、依然目につくカラスや鳩の死骸を集めるべく町内を回ったところ、体長の大きなカラスだけでも十二羽を超えて見つかっていた。 子供のいない御陵町(ごりょうまち)では、公園はもとより緩やかな坂道、丘陵の頂から続く石積みの川沿い、橋の下なども鳥や動物たちの憩いの場だったはずなのだが、小鳥や猫に関してはこのところ姿が見えず、目につくのはカラスと鳩の死骸ばかり。 すっかり日も暮れて気温も下がってきたことから、虎太郎は見回りを止め、家に向かって坂道を登り始めた。 例年ならばこの時期ぎりぎりまでコウモリが活動するのだが、今日などは一度も見ていない。 ── 何かが変だ 歩くスピードを上げ、住宅街に唯一ある動物病院の前にさしかかると、今夜は珍しく中から外まで人が並んでおり、注意して見ると外列の中にトイプードルを抱いた佐々木夫人がいた。 彼女は眉間に溝を作り、抱いているペットよりも具合の悪そうな顔色で前後に並ぶ人たちと話をしている。 『ご飯も食べないし、元気もないの。 季節の変わり目だからかしらねぇ。 この子だけじゃないのよ、私も最近頭痛が酷くって、、、』 ガラガラとコンポストを引く音に気づき、虎太郎を見て会釈をしてきたので、虎太郎もまた、軽く頭を下げてその前を通り過ぎた。
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