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「あ、佐々木さん」
言って梅音も頭を下げる。
「私達今日から旅行で留守するのよ。
毎回で悪いけどゴミ置き場の掃除、お願いできないかしら。
あと防災担当の高橋さんから町内の消防訓練、今回も参加者無しだから、催行するなら梅音君一人でよろしくって。
会長さんからは新しい掲示物があるから取りに来てほしいって伝言を預かってるわ。今日のうちに川沿いの掲示板に貼って欲しいそうよ」
「はい」
「それとねぇ、、、。
最近道のあちこちにカラスの死骸があるの知ってるでしょ?
近所中が気味悪がって。
市役所にでも連絡すればいいんだろうけど誰も関わりたがらないのよ。
それでね、どうせなら貴方に町内の見回りと役所への通報を併せてお願いしようかって」
「あ、、、でも」
「もう皆で決めてしまったんだけど。
嫌だったかしら?」
「い、いえ、大丈夫です。
見回り、しておきます」
梅音から了承の返事を得た中年女性は、立ち上がった丑蜜と竹内それから前方に停まる大型の高級車を順に見、梅音に何か訊きたそうに僅かに口を動かしたが、
「いつもいつも悪いわね」
好奇心よりは掃除係を押し付けたその場から早々に逃れたい気持ちが勝ったようで、運転席にいる夫らしき男に軽く合図すると、前を見据えて窓を閉めてしまった。
婦人の会話と態度からして、梅音が取る休みの幾日かは町内の『便利屋』にあてられているのは確かだった。
グレーのセダンを見送った後、
「我々への対応同様、がっつり断るかと思ったが、、、。
町内に対しては寛大なのか?」
「丑蜜さん敬語っ、しかもそんな言い方、、、っ」
皮肉を込めて訊く丑蜜と、それを止める竹内をものともせず、梅音は改めて男たちを見据えた。
「お引取り下さい、どんなに金を積まれても山は売りませんので」
そして足元に落ちているいくらかの枯れ葉を拾い、庭へと戻っていった。
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