『砦』

18/23
前へ
/241ページ
次へ
「そのようだな。 大きな爆発があると数日で誘導電流が放出し世界中の送電線に潜り込むらしい。 それで変圧器の保護装置が誤作動し大規模停電につながる、と」 「これまであった短時間の停電はやはり活動し始めた磁気嵐によって送電が瞬断されていたんですね。 父や祖父の研究が実証されたわけです」 口にはしたが、それも計り知れない被害と引き換えなのだとすると虎太郎(こたろう)の心中は複雑だった。 「だが現時点で小動物にこれだけの被害が出ているなら今後来るのは並のフレアではないだろ。 となると政府も事前に分かってるはず。 経済活動の停止はもとより大停電や更なる電磁障害すら国民に警告しない理由としては、、、」 「したところで手立てがないから」 二人は顔を見合わせた。 「一つ訊かせてくれ。 電磁波による体調不良は余程大きなものでない限り人間には影響ないんだよな」 「人によると思います。 敏感な人は早い段階で酷い頭痛や耳鳴りに苦しむそうですし、そうでない人は全く、、、」 「うめね君は?」 途切れることのない丑蜜との会話で、いくらか緊張が解れてきた。 それはもちろん、丑蜜が自分を信じてくれている上でのやり取りだからなのだが。 「僕は元々そういったことに鈍いので、なんともありません」 「俺もだよ。だけど」 虎太郎が『あ』と小さく声を上げ、その後同時に『みたらしが』と発し、二人は急いで家の中に入って行った。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

179人が本棚に入れています
本棚に追加