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虎太郎は急いでジムサック型の防磁袋に みたらしを入れて背負い、部屋の端から順にシートを広げ敷き、その合間にも丑蜜に釘を手渡したり、ホウキの柄で打ち付ける部分を押さえたりと忙しく立ち回った。
そしておよそ一時間後、
何の変哲もなかった和室は完全なる防磁室と変わり、虎太郎が準備していた電磁波測定器で計測してみると、一般的に安全とされる基準値を下回っていた。
「お待たせ、みたらし」
ようやく袋から出された みたらしは相変わらずか弱く鳴いていたものの、床に張ったシートの上に下ろそうとすると暴れ、虎太郎の袖に爪を立てて嫌がった。
「いたた、、、」
「どうした」
シートの合せ目を確認していた丑蜜が側に寄ってきた。
「みたらしが離れないんです。
仔猫は爪が細いけれど針のようだから」
「電磁波による不調があったことだし、こいつなりに何らかの異変も感じてるんだろう、可哀想に」
丑蜜はシャツを通して虎太郎の皮膚に食い込む猫爪をそっとつまんで引いてやったのだが、みたらしは急に高い声で鳴きながら腕をよじ登り、虎太郎の胸元に顔を埋め始めてしまった。
「だ、だめだよ、みたらし」
虎太郎は困ってしまった。
時間的にお腹を空かせてるには違いないのだが、丑蜜の前で胸を開くわけにはいかない。
ましてや猫に乳首を含ませる姿など見せられるものではなかった。
「腹、空いてるんじゃないか?」
猫を飼ったことのない丑蜜ですら、みたらしの鳴き声が空腹を訴えていると分かったようだ。
「そう、、、ですね。
、、、で、では用意してきますので、
すみませんが丑蜜さん、この子がご飯を食べる間、側に付いててやってくれますか?
僕は人間の分も何か作ってきます」
「水道とガスは使えるのか?」
「多分。
駄目でも家には水の備蓄がありますし、カセットボンベもありますので大丈夫です」
甲高い鳴き声を張り続ける仔猫を丑蜜に託し、ランタンを手にした虎太郎は居間との境に垂らしたシートのマジックテープをそっと捲り台所に向かった。
─ 僕が側にいなければ何とかなる。
頼むよ みたらし!
頼むから今日だけでも胸吸いなしで食べてくれ、、、!
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