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ガスも水も何とか使えたが、台所で測る電磁波量は変わらず強かった。
そして同じく強いのは 防音効果も兼ねたシートで囲われてるにも関わらず聞こえて来る、みたらしの切羽詰まった鳴き声だった。
変わらぬ電磁波量に対し、一分二分と時間が過ぎる毎に大きくなる仔猫の鳴き声に虎太郎の手が焦る。
フードを湯で半分ふやかし、固いままの残りを手早く混ぜた。
ニャーニャーッ、ニャァーッ、、、
丑蜜を手こずらせているのだろう、そうしている間にも甲高い声が一層高く間隔を短くしていた。
虎太郎は大きく深呼吸し、祈る気持ちでシートの隙間から皿と水を差し入れた。
「できました。
ここに置きますので、すみませんが丑蜜さんから与えてやってくれますか?」
「おお任せとけ。
みたらし、お待ちかねの飯だぞ〜」
ニャァァッ
─ 良かった、、、
部屋に丑蜜さんしかいなければ、みたらしも諦めて食欲に負けてくれるだろう。
虎太郎は台所に戻り、足元に据えられている蓋を外した。
床下には保冷と冷凍とで二層に別れた食材庫が設置してある。
板を脇へ置き、更に冷蔵庫として使っている収納の蓋を開けてランタンをかざし、一通りを眺めてから傷みそうな食材を優先して取り出した。
「卵にチーズにベーコン、ほうれん草と、これは、、しめじ、、、か。
よし、フライパンでキッシュもどきでも作るか」
調理台に食材を運び、溶き卵にカットした野菜を混ぜ、バターを放り込んだ熱いフライパンに流し入れる。
虎太郎は鳴き声が聞こえてくる居間の方を尻目に無洗米と水を圧力鍋に入れて、それも火にかけた。
うめね家には炊飯器も電子レンジもない。
かろうじて冷蔵冷凍庫は床下用のものをつけたが、冷凍庫は氷を作るのと熟成させた鮒ずしを美味しく食べるだけの用途であり、冷蔵庫にしても必要最低限の利用に留めていた。
わざわざ面倒な位置に設置したのは、便利な家電に慣れないようにする為。
祖父の種吉は、
『炊飯器や電子レンジ、冷蔵庫があったところで停電となれば使えはしない。普段から火を使って炊く、温めることに慣れる、そして食材の常温保存の仕方、食べられる状態か、腐っているかの違いを自分の口で体感しておきなさい』と常に教えていた。
とはいえ、山暮らしのような梅音家でもパソコンやスマホなど、窮極のところ電気は必需であろうとわかっていたから、ポータブル電源は容量の大きなものを買って食材庫にしまってあった。
しかしそれは いよいよ本格的にライフラインが停止したときに使うのだと虎太郎も決めていた。
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