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首ったけ
『胸を開けるので、こっちを見ないで下さいね』と言った後でも、尚まごついている虎太郎に、丑蜜は少し距離を取って背中を向け、座った。
みたらしは飼い主のシャツが開くのも待ちきれず、細い前足で早くも交互に踏み込む仕草を始め、小刻みに震えていた。
「待ってみたらし、待てったら」
ニャァァァ、、ッ、ニャァァッ、、、
つぶらな瞳はただただ虎太郎の胸を目指し、大きく見開かれている。
─ みたらし、、、。
すごく腹を空かせてるはずなのに、、、。
完全に離乳してない みたらしにとって、食事前の胸吸いがこんなにも重要で欠かせない事だったのかと、虎太郎はこれまで羞恥しか頭になかった自身を申し訳なく思った。
「ごめん、今あげるから」
あげると言っても男の胸から何も出はしない。
けれど、こうした言葉掛けを虎太郎は時折してやっていた。
バイトで長く留守番させてしまった日などは詫びる気持ちも兼ね、母親が乳児に対して接するように、
『みたらしは良い子』
『可愛い、可愛い』
などと語りかけており、そういった言葉は虎太郎が懐深くに温めていた母性への憧憬でもあった。
「今日はうんと焦らしちゃったな。
気が済むまで吸っていいよ」
そして今もまた、ついうっかり似たような類の言葉がけをしていたようだ。
「うめね君」
はっとして背後を伺うと、丑蜜が頭を抱えている。
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