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『秘密』を教えると言って愛撫の手を逃れた 虎太郎は、シャツの前を合わせてから みたらしをつかまえ、ケージに入れてロックをかけた。
部屋の押し入れにあたる所には防磁シートの合わせ目がある。
小柄な身体はそこから最小限の隙間を作って向こう側へ潜り込み、丑蜜に後に付いて来るよう手招きした。
「丑蜜さん、どうぞこちらへ」
「困ったな。
今は君を抱いていたいんだが」
虎太郎が持つ秘密は気になるものの、すでに丑蜜の身は下腹を含めてかなり熱を帯びており、再び理性を呼び戻すには息をも整える必要があった。
それでも何とか気持ちを切り替えて背後からランタンの灯りを照らしてやろうとすると、虎太郎の静かな声はそれを制した。
「ライトは置いて来て下さい、こちら側はまだ電磁波が影響してますので壊れるといけません」
「しかしそれでは何も見えないだろう?」
虎太郎が這う先はただの暗闇だった。
しかし壁だと思われた押し入れの奥が擦れる音によって開いたと分かると、丑蜜は驚いて目を凝らした。
「扉があるのか」
視覚が慣れても尚暗闇であったが、虎太郎の先から流れ出てくる風によって、広い空間が予想できた。
虎太郎は手探りですぐに灯りを点けた。
「以前、僕が丑蜜さんに見せたい物があると言ったのを、覚えていますか?
その際に話があるとも」
周囲を浮かび上がらせたのは小さなティーライトキャンドルの灯火だった。
「ああ、覚えている」
床には個包装され、大ビンに詰められたキャンドルが幾つも並んでいる。
倉庫と思しき空間の左右表面には棚があり、火を持った虎太郎が移動するにつれて隙間がないほどのボトルや瓶、缶、段ボールがまず下段に並び、中段にプラスチックケース、上段から天井にかけてはトイレットペーパーやティッシュなどの紙製品が隙間なく詰められているのが認められた。
それだけではない。
正面の奥には箱のようなものもずらりと並び、和室を囲ったのと同じ電磁シートが被せられているようだった。
「うめね君、これは、、、」
「我が家の備蓄品です。
自然災害や有事によって食料やその他の物資が手に入らなくなっても、祖父と僕の二人が数年生きていけるだけの量はあると思います」
「数年分の、、、」
確かに、丑蜜の目に映るだけでも一般的な備蓄というには尋常でない物の数だった。
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