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居酒屋でのバイトを終えた帰り道。
日付の変わった人通りもほとんどない静かな道を歩く。
コンビニに入っておにぎり売り場の前に立った俺はいつものようにツナマヨを二つ手に取った。
店を出て左手におにぎりを持ったまま右手はポケットに突っ込んで歩いていた俺は街灯に照らされたあの貼り紙が目に入って足を止める。
今朝見かけた場所とは違うしこれも古くさい建物だが貼り紙は一緒のようだ。
「記憶とか……借りてどうなるんだよ?」
呟いて深く息を吐くとまたアパートに向かって歩き始める。
しばらくして見えてくるどう見たってボロボロの木造アパート。
足を踏み入れるとギギッと音が鳴っていくつか穴も空いている箇所は慣れているいつもの感覚で避けた。
このアパートに一人取り残されて気づけば七年。
たった四つの扉も他はどこも空室で今は俺しか開くことはないのに、母と暮らしたこのアパートから俺は離れられないで居る。
中一の時に母が死んで初めて会った父は見ただけで金があるのがわかった。
もっといいマンションをと言われたことも断って学費と家賃の面倒だけはみてもらっている。
パチンと電気を点けながら靴を脱ぐと、頭にあの貼り紙が過ぎってフッと鼻で笑った。
記憶で何が変わる?
どうしたって母はもう還らないのだから。
パカパカと消えかける室内灯の下で俺は膝を抱えてゆっくりおにぎりの包装を剥がした。
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