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5組になった。
桜が舞う4月、と言いつつも校庭に桜は咲いていないので、LINEのIDが飛び交う4月、とでもしておく。俺の高校では学年が変わる毎にクラス替えがあり、せっかく仲良くなったやつとも一年でさよならになる。少し悲しい。
黒板に書かれた自分の席を探す。
「おっ佐藤じゃん!」
ドアの方からやけに明るい声が飛んできて顔を上げる。
「新井」
前髪をセンター分けにした男がドアから一直線にこっちに向かってくる。新井は一年の時委員会がいっしょだっただけのやつだ。新井の印象は、前髪がセンター分けの図書委員。他の情報はまったくなかった。
「佐藤~一緒になれてうれしいよお」
「なんだよその言い方」
ベタベタとくっついてくる新井と逆側の肩にかけた鞄の紐に、親指を滑り込ませる。相変わらず新井は俺にくっつきながら何か喋っていたが、内容はひとつも入ってこなかった。汗臭いかもしれないから、くっつかないでほしかった。
去年の5月だっただろうか、初めて図書委員会が開かれたときの事だった。この学校は小さな図書館が校舎に併設されていて、俺らはその図書館の二階、ミーティングスペースのようなところに集まっていた。たしかペアになって目標を考える、とかそんな感じだったと思う。新井はたまたま隣に座った俺に「ペアだって!」と話しかけた。挨拶でもなんでもない第一声。
新井は明るいやつだった。その後もそれ以上仲良くなることはなかったが、当番が一緒になる度に隣でなにかを喋っては、一人で笑っているようなやつ。適当に相槌を打てばいいのが楽で、だんだん当番が楽しみになった。廊下ですれ違うとき、「よ!」と声をかけてくれるのが嬉しかった。
新井は俺の前の席になった。華奢だと思ってたけどこう見ると背中が大きいな、なんて思っていると突然新井が振り向いた。俺は反射的に左手の親指を握って隠した。
「な、委員会どうする?」
「…ああ」
新井も俺も、当然図書委員な気がしていた。よく考えたら、図書委員は1クラスにつき1人だった。
「あー…やりたいけど…」
ごにょごにょ、と語尾を濁している間に新井は前を向いて手を上げた。
「佐藤が図書委員だって!」
「あ、おい」
黒板に書かれた図書委員の文字の下に、佐藤という文字が増えた。
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