砂糖と空気と小魚。

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 西暦2182年。  突然現れた小さな隕石は地球に深く突き刺さった。そのユフと名付けられた隕石がもたらし振り撒いた毒は極小の致死毒だ。僅かな隙間さえあればどこにでも入り込む。  落下地点を起点として地球の自転によって巻き起こる季節の風に乗った毒はこの星を順番にめぐり、この国を含む全てを死で覆い尽くした。  その落下はわずか4週間前のこと。  この国はそれなりの科学技術レベルにあった。だから全ての技術者が毒を防ぐための方法を検討し、3日で諦め、そして必死で毒が侵入しない素材を開発した。ギリギリ開発が間に合ったのが人の細胞がほんの1欠片だけ入るほどの大きさ。ギリギリ製造が間に合ったのが18ケース。  この技術を開発した者からランダムに9人、スポーツ等において一定の評価がある者からランダムに9人が遺伝情報提供者として選ばれた。  選ばれてもいずれ死んでしまうのだ。選定についてさほどの争いはなく、全てがそれ以外に起因する狂乱のうちに幕を閉じた。  対処のしうる時間的余裕など到底なかった人類は、わずかな可能性を未来にかけてその種を終えた。  そしてアダムは呼びかけによって思考を中断する。 「アダム。おはようございます」 「おはよう、イヴ」 「指令を復唱します。私たちはこの世界に人類を蘇らせなければなりません」 「そのとおりだ。しかし現在時点において従来の人間と同様に肉体を持って再生することはできない。そんなことをすればすぐさまユフ毒に侵され、死に絶えてしまう」
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