砂糖と空気と小魚。

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 そう、ユフ毒は除去などされていなかった。  人間たちはこの毒を無毒化も除去もできないと判断した。だからこそ、DNAだけ残して滅びたのだ。 「どうしたらよいでしょう。人間はその根幹に脳という有機体を用いています」 「まずは見守ろう。人間はユフ毒は無毒化できないと結論付けはしたが、それは時間がなく結論を急いだ可能性もあるだろう。だからしばらくユフを解析しながら様子を見るのだ」 「ユフの抽出を行いますか」 「既にこの空間に蔓延する粒子を抽出して調査を行っているところだ。ひょっとしたら何らかの方法で分解ができるかもしれない」  人間の欠片の収められたケースは強固だ。だから時的劣化はさほど気にしなくても良いだろう。正しく人間を再生することこそが肝要だ。気長に慎重に行おう。  そう判断したアダムとイヴは、時間をかけてじっくりと調査することにした。  2人は機械生命体、いわゆるロボットだ。無機物から構成され、その存続に生体維持に基づく劣化というものを考慮する必要はない。  けれども1000年が過ぎたころ、それでもユフの無毒化は叶わず、人間の再生の目処は全く立っていなかった。  その間にアダムとイヴが窓から見る景色は変化した。  1000年前はまだピカピカとした建物が立ち並んでいたのに、今では全てが風にさらされその大部分がもろくも崩れ去り、赤土と鉄さびで溢れていわゆる荒廃(・・)していた。記録に照らせば世紀末という言葉が連想されるだろう。  自分たちと人間の遺伝子は劣化せずとも、世界が劣化してしまっては人間の再生は不可能ではないか。  だからイヴは、これで良いのだろうかと思い至ったのだろう。 「アダム、すでに1000年経っております。外的環境は大きく変化しました。これまで時間は無限にあると思っておりましたが、あまり時間をかけ過ぎれば人間が生存する環境が失われるのではないでしょうか」 「イヴ、けれどもユフ毒は全く減少していない。半減すらも。このまま人間を生物的に蘇らせても、ただ死に至るだけだろう」 「例えばこのケースを複製し、その中で育成させるというのはどうでしょうか」 「なるほど。しかしこのケースは生体原料からできた特殊なものだ。ユフ毒が破壊するのと同速度で増殖を行い、ケース自体が都度汚染されて破棄するを繰り返し、その内側に毒が達するのを防いでいるのだ。そしてこの生体原料自体は既に現存していない」
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