砂糖と空気と小魚。

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 アダムの言う通りだった。  このケースは複数の動植物を超短期間に遺伝子改良し、癌細胞のように自己増殖するように作り上げた代物だ。もととなる生物群は既にユフ毒に汚染されて死に絶えている。この国の人間が総力をあげても小さいケース18個しか作れなかったのだ。  だからこのケースを再現することは不可能だ。そして内部を拡張し、安定させることも不可能だった。  アダムも人工的に製造を試みたが、既に素体がない以上、この絶妙な配合を再現することは叶わず、あっという間に大増殖して劣化を来すか、ユフ毒耐性の不完全なものしか造り得ずすぐに朽ちた。  ユフが落ちて後の短期間でこのようなケースの創造を発想したという点で、アダムは人間に対して強い畏敬の念を有していた。それは定められたプログラムの外を出ることができないアダムには行い得ない拡張性だった。 「それであれば私たちと同じ電子データとして仮想空間に再現するのはどうでしょうか」 「それも考えたが、人間は電子データとしてではなく、生物としての復活を望んでいるようなのだ」 「何故なのです?」 「きっとそれが人間というものだからではないか。不自由で不確実性の大きな劣化する有機物素体の上に存在するからこそ、人間と言える、そのような発想を私は過去の歴史から読み取った」  アダムは人間の人間たる煌めきは、その不確実性ゆえに生まれるものだ考えた。  けれども行き止まりにぶち当たる。  やはり有機体、生き物として再現するために必要な生体パーツは、ユフが残存する限り外的環境下では保持し得ない。すぐにユフに汚染されて死滅する。 「有機体を再現できるほどユフが弱毒化することはあるのでしょうか。このまま肉体にこだわっては永遠に人間を再現できないのでは?」 「イヴ、私もそれを危惧し始めていた」 「それであれば肉体の劣化を基礎として、それをプログラムに組み込めばいいのではないでしょうか。つまり一定の時間経過によって不具合や死が訪れるようプログラムしてみては」 「ふむ……」  アダムはそう上手くいかないのでは、と思いつつ、ともあれシミュレーションをしてみることにした。
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