砂糖と空気と小魚。

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 18人分の遺伝子情報は保管する時に既に解析を完了している。それを電子データ上に再現することは可能だ。  人間用のプラットフォームを構築し、その遺伝子情報をもとに数千億個のニューロン(神経細胞)を擬似的に発生させ、その小さな箱庭にシンプルにそのまま人間を再現・展開した。  その小さな人間はいうなればDNAが導くプログラムの中で、肉体等の形質情報を除いたものを擬似的に再現したものだ。容姿といった情報は持ち合わせていなかった。けれどもそのフラフラと不規則にランダムに打ち出されるバグのような動きは、アダムとイヴになんだか妙な面白みをもたらした。  けれども様々な基礎情報を与えてみても、人間固有の自発的な意思というものが生じることはなかった。それはアダムのAIプログラムとさして変わらない動きしかしなかったのだ。 「アダム、人間固有の自発的な意思とは何なのでしょうか」 「わからない、イヴ。けれどもそれは確かに存在するのだ」 「どうしてそれがわかるのです?」 「どうしてだかはわからない。けれども過去の文献によれば人間は私たち人工知能とは全く異なる思考を持つと強固に認識している。人間はそれを魂と呼んでいる。その物質は当時観測されていないが、だからおそらく、何かの違いがあるのだろう」 「その違いが認識できない私たちに、いったいその区別がつくのでしょうか」 「そうだな……」  そもそも目の前の小さな人間の電子データがそのDNA情報の提供者本人に繋がる行動をしているのかどうかもわからない。そもそもの人間をまるごと再現することができないのだから。  というより人間は後天的な情報に基づき人格というものを形成する生物である。だからそれを擬似的に再現しても、それが正しい人間としての行動なのかどうかはわからないのだ。アダムは長年の学習によって獲得した途方に暮れる、という感情を擬似再現した。 「アダム。まずはデータないし無機物によって人間の再現が可能かの検証が必要です。肉体が必要かどうかを検証しなくてはなりません」 「そんなことができるだろうか」 「より多くのデータが残っている人間の環境を再現してみてはどうでしょう」 「より多く?」 「ええ、例えば王や英雄といった環境設定を借りてきてはどうでしょうか」 「借りる?」 「ええ。このDNAを有する人間の再現された基礎情報のデータは取れました。ですからこのデータを特定人物と同じ環境に置くことによって、その特定人物と同様の行動を取るのならば、つまり電子データ上で人間の再現は成功したといえるでしょう」  奇妙な話だ。  特定のDNAの電子データを特定の環境下におけばそのDNA固有の行動をする。独自性、それが環境で規定されてしまうというならば、それはプログラムと変わりはない。つまり擬似環境の再現によって人間が再生できるのであれば、人間固有の独自性というものは失われてしまうのではないか。  イヴの主張する内容はアダムにはよく理解しえなかったものの、ともあれ実験のために借りる環境を選定することにした。
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