二人だけの秘密

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「分かった。行こう」 真剣な表情の夏美を見つめながら、息が詰まりそうな一瞬をようやく乗り越えた沙織が口を開いた。 そして、夏美の提案に対する結論が出ると、二人は暑さと日差しから逃れるために、足早に駅前の喫茶店へと入って行った。 大手珈琲チェーンが運営する小洒落た喫茶店の注文カウンターで、二人は揃ってラージサイズのアイスコーヒーを注文する。 その後、受け取りカウンターで商品を受け取り、席へと向かう。 店内を見渡すと、二人が座るのに丁度良いテーブル席を発見し、それぞれが向かい合わせの席に着席すると、お互いにアイスコーヒーを一口づつ飲んだ所で、夏美の方から口を開いた。 「昨日の事なんだけど………」 やっぱりそうだ。 夏美が何を話そうとしてここに来たのか。 それは沙織の予想した通りの言葉から始まった。 事の発端である昨日の夜の出来事を、沙織は改めて頭の中で回想する。 昨日、私と夏美は研修が終わった後に軽く食事でもしようと約束をしていたため、約束通りに、数駅程先の駅にある街を訪れていた。 その駅を降りた先は、このあたりでは一番の繁華街となっており、二人が食事を終えて再び街に出た21時を過ぎても、街はまだまだ昼間のような活気に溢れていた。 「終電まで後一時間もあるね! 折角ここまで来たんだから、お酒でも飲んでみる?」 相変わらずの天真爛漫さを遺憾なく発揮する夏美に、私達は未成年だと諭しながら、私は「明日も研修だから」と帰路に就く事を提案した。 しかし、そんな提案を夏美が承諾する訳はなく、私は駅とは反対方向に手を引っ張られて、なすすべもなく繁華街の奥へと進んで行った。 「ちょっとまって! ここから先は危ないから近づいたら駄目だって聞いてるよ?」 繁華街を奥へ奥へと進むうちに、私達は如何わしい看板が光るエリアへとたどり着いていた。 好奇心旺盛な夏美は、二人なら大丈夫だとそのエリアに入って行こうとしたのだが、彼女がそのエリアに足を踏み入れる寸前の所で、私はそういって夏美を引き止めた。 「沙織、私達もう19だよ? 少しくらい大人の雰囲気を体感しとくのも、きっといい経験だって!」 私は気が進まなかったのだが、そりゃー私だって年頃の女だし、絶対に見たくないかと言われれば、そうでもなかった。 結局夏美の口車に乗って、私達は大人の世界へと足を踏み入れてしまった。
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