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車の回転計に例えるなら、今の私のドキドキメーターは、エンジンが壊れてしまいそうなくらいにまで達している事だろう。
逃げなければ!
そう強く思った私が、未だに隙間から倉庫の中を覗いて凍りついている夏美の腕を掴んだ。
完全にフリーズしてしまっていた夏美が、ハッとしたように私の顔を見返す。
お互いに何か言葉を発したわけではないが、私達はアイコンタクトで大きく頷くと、音をたてないように、一歩後退った。
だがこの時に、夏美は自身の後ろにあった小さなガラス瓶を倒してしまった。
カラーンと瓶が倒れる音に気がついた倉庫内の男達が、隙間から中を覗いている私達に気が付き、彼等は私達を目掛けて一直線に襲いかかってきた。
私達も慌てて路地を一直線に走って逃げだした。
捕まったら殺されてしまう。
その恐怖と不安が、私達のドキドキメーターを一気に限界値まで押し上げる。
路地を一つ入れば、あの明るい繁華街だ。
そこに出れば、助けはいくらでも呼べるだろう。
後から考えれば、そうするべきであったのは明白なのだが、その時の私達は、極度のパニックと恐怖に支配されており、助けを求めて声を上げることも出来ず、ただ溢れる涙を流し続けながら、追手から逃げ続ける事しか出来なかったのだ。
しかし、後ろから迫ってくる男達の足音が、私達のすぐ後ろまで迫って来ているのが分かったその時、私は着ていたパーカーの襟を、追ってきた男に掴まれてしまった。
「うわーーーー!」
掴まれたら最後、男達はすぐに、力で私達を地面に引っ倒した。
もうだめだ。
そう思った時、私は自然と誰も居ない筈の路地に向かって叫んでいた。
すると、私を捕まえた男が、私を黙らせようと私に馬乗りになり、私の口を手で塞ごうとしてきた。
私と夏美は瞬く間に錯乱状態に陥り、もはや自分が何をしているのかさえも、はっきり分からない状態に陥ってしまっていた。
しかし、そんなになってでも私が必死に抵抗を続けていると、私を拘束しようとしていた男達の手が、突然私の体から離れた。
私に馬乗りになっていた男は、私の体からぴょんと飛び降りると、一目散に何処かに走り去って行くのを、私ははっきりと見た。
そしてその直後。
「何やってんだお前等ぁ!」
と言う怒号と共に、私の頭の上を数人の人が飛び越えて行き、今私達が走ってきた道を逆走する形で、奥の方にに走って行った。
その場では何が起こったのかも分からなかった私は、地面に寝転んだ状態のまま、逃げなければいけない方向に呆然と目をやる。
すると、赤いランプを回転させた白い車が、私達二人の前で止まっているのが分かった。
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