119人が本棚に入れています
本棚に追加
8階まで辿り着いたアレン。
手を膝に、肩で息をしながらも考えていた。
(人の気配が…ない)
階段は建物の中央部にあるが、登る間の各階で、全く人の居る気配を感じなかった。
「大丈夫?アレン。運動不足ね」
「イザベラ、不気味な程静かだな」
「えっ?あ〜そうね。これが、ザ・ホールよ」
全ての異質な雰囲気や疑念も、その名前一つで当たり前に感じてしまう。
と、その時。
「こら、誰だっ❗️」
廊下の奥の部屋から、ゆらりと灯りがこぼれ、管理人の怒鳴り声が聞こえた。
慌てて駆け寄る2人。
開いたままのドアから中へ入っ…た。
「な!…何なんだ、これは…」
2人の意識は、飾り物の如く壁に張り付いた、人らしきモノに惹きつけられた。
「やはり…これは」
その呟きに気付き、ふと…床に視線を下げる。
夥しい量の血が、紅黒い血溜まりを幾つも作り、規則的な模様を描いている。
その床に、チョークで図形を描く者がいた。
チョークが近付くと、血溜まりがまるで生きているかの様にそれを避ける。
「勝手に入りやがって❗️」
管理人が怒鳴りながら近付く。
「止まれ❗️今入れば…死ぬよ」
決して大きな声ではない。
しかし、心に沁み渡る様な言葉が恐怖心を煽り、管理人の足が止まる。
ふと見ると、あの壁から半円状に線が描かれており、何故かその線の外側には、一滴の血も見当たらなかった。
黒いフードマントを被った小柄な人物は、その中にいて、床に不可思議な図形を書いていた。
「よし」
書き終えて、床に置いていた蝋燭を手に取り、図形に火をつけた🔥。
「ズバババババッ❗️」
一瞬にして図形が燃え、あの半円が消えた。
「もういいよ」
管理人には、もう怒鳴る気力すら失せていた。
逃げる様に部屋から出て行く。
「おい、こら待て!…ったく、何なんだ」
「アレン刑事、割と早かったな。待ってたよ」
フードを外し、黒サングラスの顔が頬笑んだ。
意外な正体に驚くアレン。
(女の子だったとは…)
「誰なんだ君は?何故私を知っている?さっきは何をしてた?アレは何だったんだ?」
「アレン、質問多すぎ💧。相棒のイザベラよ、あなたは誰なの?どうしてここに?」
じっとイザベラの顔を見つめる。
「刑事なんだ…フッ。相棒…か、なるほどね」
それだけ言って、出て行こうとする。
「ちょっと待て!」
その腕をアレンが掴み止めた。
「バチッ⚡️」「痛っ❗️」
電撃に触れた感覚で、慌てて手を離す。
「まだ私に触らない方がいい。それから、ここを調べても刑事さん達じゃ、犯人には辿り着かないわ。後は鑑識に任せて、署に戻りましょ」
そのタイミングで、鑑識班達が入って来た。
機材を持ち、ヘトヘトである。
「ふぅ〜参ったな、全く…えっ⁉️」
そんなボヤきと荒い息すら止まった。
全員の目が壁に釘付けになる。
「何なんだ…これは?」
「惨状はいくつも見てきたが、俺もこいつには驚いたよ。何があったら、人があんな形で壁にめり込むんだか。何か分かったら知らせてくれ」
床から1mほど離れた壁に、全裸の女性が張り付いていた。
衣類は脱いだ、或いは脱がされたのではなく、千切れ飛んだ様である。
余程の圧力で壁へ圧し付けられ、背面半分が壁に減り込むか、潰れているのが分かる。
乳房や顔面も圧力に負けて潰れていた。
更に奇妙なのは、壁に血痕はあるものの、垂れた跡はなく、全て床に溜まっていたのである。
「分かったアレン。しかし…どう調べるか…」
「イザベラ、帰るぞ」
「あんな得体の知れないヤツの話を?」
「ヤツに聞いた方が、早そうだからな」
早くこの場を離れたい気持ちが7割、「ヤツ」への興味が3割と言ったところである。
とりあえず、一旦署へ戻ることとなった。
最初のコメントを投稿しよう!