第1章.兆し

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8階まで辿り着いたアレン。 手を膝に、肩で息をしながらも考えていた。 (人の気配が…ない) 階段は建物の中央部にあるが、登る間の各階で、全く人の居る気配を感じなかった。 「大丈夫?アレン。運動不足ね」 「イザベラ、不気味な程静かだな」 「えっ?あ〜そうね。これが、ザ・ホールよ」 全ての異質な雰囲気や疑念も、その名前一つで当たり前に感じてしまう。 と、その時。 「こら、誰だっ❗️」 廊下の奥の部屋から、ゆらりと灯りがこぼれ、管理人の怒鳴り声が聞こえた。 慌てて駆け寄る2人。 開いたままのドアから中へ入っ…た。 「な!…何なんだ、これは…」 2人の意識は、飾り物の如く壁に張り付いた、人らしきに惹きつけられた。 「やはり…これは」 その呟きに気付き、ふと…床に視線を下げる。 (おびただ)しい量の血が、紅黒い血溜まりを幾つも作り、規則的な模様を描いている。 その床に、チョークで図形を描く者がいた。 チョークが近付くと、血溜まりがまるで生きているかの様にそれを避ける。 「勝手に入りやがって❗️」 管理人が怒鳴りながら近付く。 「止まれ❗️今入れば…死ぬよ」 決して大きな声ではない。 しかし、心に沁み渡る様な言葉が恐怖心を(あお)り、管理人の足が止まる。 ふと見ると、あの壁から半円状に線が描かれており、何故かその線の外側には、一滴の血も見当たらなかった。 黒いフードマントを被った小柄な人物は、その中にいて、床に不可思議な図形を書いていた。 「よし」 書き終えて、床に置いていた蝋燭を手に取り、図形に火をつけた🔥。 「ズバババババッ❗️」 一瞬にして図形が燃え、あの半円が消えた。 「もういいよ」 管理人には、もう怒鳴る気力すら失せていた。 逃げる様に部屋から出て行く。 「おい、こら待て!…ったく、何なんだ」 「アレン刑事、割と早かったな。待ってたよ」 フードを外し、黒サングラスの顔が頬笑んだ。 意外な正体に驚くアレン。 (女の子だったとは…) 「誰なんだ君は?何故私を知っている?さっきは何をしてた?アレは何だったんだ?」 「アレン、質問多すぎ💧。相棒のイザベラよ、あなたは誰なの?どうしてここに?」 じっとイザベラの顔を見つめる。 「刑事なんだ…フッ。相棒…か、なるほどね」 それだけ言って、出て行こうとする。 「ちょっと待て!」 その腕をアレンが掴み止めた。 「バチッ⚡️」「痛っ❗️」 電撃に触れた感覚で、慌てて手を離す。 「まだ私に触らない方がいい。それから、ここを調べても刑事さん達じゃ、犯人には辿り着かないわ。後は鑑識に任せて、署に戻りましょ」 そのタイミングで、鑑識班達が入って来た。 機材を持ち、ヘトヘトである。 「ふぅ〜参ったな、全く…えっ⁉️」 そんなボヤきと荒い息すら止まった。 全員の目が壁に釘付けになる。 「何なんだ…これは?」 「惨状はいくつも見てきたが、俺もこいつには驚いたよ。何があったら、人があんな形で壁にめり込むんだか。何か分かったら知らせてくれ」 床から1mほど離れた壁に、全裸の女性がいた。 衣類は脱いだ、或いは脱がされたのではなく、千切れ飛んだ様である。 余程の圧力で壁へ()し付けられ、背面半分が壁に減り込むか、潰れているのが分かる。 乳房や顔面も圧力に負けて潰れていた。 更に奇妙なのは、壁に血痕はあるものの、垂れた跡はなく、全て床に溜まっていたのである。 「分かったアレン。しかし…どう調べるか…」 「イザベラ、帰るぞ」 「あんな得体の知れないヤツの話を?」 「ヤツに聞いた方が、早そうだからな」 早くこの場を離れたい気持ちが7割、「ヤツ」への興味が3割と言ったところである。 とりあえず、一旦署へ戻ることとなった。
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