第1章.兆し

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〜コンラッド ニューヨーク〜 マンハッタン地区のウォーターフロントに位置し、ハドソン川沿いのロックフェラー公園に近い、人気の高級ホテルである。 c262957a-52fa-407e-b9d4-63d791a11d6c ホテルのレストラン別室では、豪勢な顔ぶれがテーブルを囲んでいた。 ニューヨーク州知事、マテオ・アンダーソン。 現ニューヨーク市長、ソフィア・ジャクソン。 次期市長候補、メアリス・アイリーン。 ニューヨーク市警署長、キャサリン・フーパー。 民主党議員、イライジャ・ハーン。 招待したのは現ソフィア市長であり、市長選を前に、彼女が()すメアリス候補の地盤固めである。 「マテオ州知事、よく来て頂きました。彼女が私の後任として推薦している、メアリス・アイリーンです」 「州知事、お会い出来て光栄です」 「こちらこそ、あなたの人種・人権問題に対する活躍は、大変素晴らしいと感心しています」 メアリスは、人材育成を手掛ける大企業のCEO(Chief Executive Officer)である。 その傍ら、アメリカでの人種正義推進を掲げる投資家・企業経営者の団体『RJI』(Racial Justice Investing)に習い、先住民に特化した非営利団体『NARO』(Native American Rights Organization)立ち上げる他、様々な活動に投資や寄付をしていた。 「いえ、まだまだこの国には、根強い人種差別の思想があり、問題は山積みです。それらの主張には理解できる理由もあり、難しいものですわ」 「我々警察も、一部の理解の乏しい警官のおかげで、マスコミやネットで酷く叩かれ、お恥ずかしい限りです。何とか改革をと奮闘している次第ですが、騒ぎは後を絶たず、困ったものです」 市警の署長に女性が就くことは珍しい。 身分を隠して一婦警から叩き上げた実力と、持って生まれた統率力が伴い、かなりの切れ者である。 実際のところは、本人は表に出さないが、スミス大統領の妹であることが、出世を加速した要因で、政界にも協力者が多い。 「変に受け取らないで頂きたいが、ソフィア市長にメアリス次期市長、キャサリン署長と、最近の女性陣の活躍には、頭が下がる思いです。私が議員として居られるのも、ソフィア市長のおかげ。メアリスさんには、大いに期待しております」 イライジャは、先住民の血を引く家系でありながら、立ち回りの上手さと、先見の目利きの良さで成功した、数少ないネイティブ・アメリカンの一人であった。 「ニューヨークには、20万人を超えるネイティブ・アメリカンの人々が住んでいると聞きました。民主党の支持も他の州より高いのは、あなたの様な公平な主導者がいるからです」 マテオ州知事に、裏表はまずない。 稀に見る実直で、正義感の強い実力派であり、その反面、秀でた戦略家でもある。 それ故に、敵も多い。 この話題が、今夜のきっかけであった。 4人もそれを理解した。 「本題ですね。どうやら今夜も犠牲者が出た様です。これで既に15人。犯人は未だ不明なままで、都市伝説まで囁かれ始めました」 真剣な目で、キャサリン所長が話す。 「死の精霊…ですか。誰が始めたかは分かりませんが、根拠のないただの噂では?」 「イライジャ議員、表には出ていませんが、ダグラスコーポレーションの社長令嬢の話はご存知でしょう。世界中から名医を集めても、未だに病状は改善されず。直接関わった社員達にも怪しい噂を耳にします」 社長であるバズミール・ダグラスと親しいキャサリン所長は、兄であるスミス大統領の人脈を使い、世界中の名医を呼んだのであった。 「ついには、バチカンから…エクソシストまで呼んだとか…」 「議員、その話は絶対に漏らさない様に。エクソシストは、表向きにはバチカンとは無関係。ただ…神父が乗った政府の専用機が墜落し、スミス大統領が始末に追われているとか…ただの偶然ならいいのだが…」 マテオ州知事は大統領と親しく、その苦悩ぶりを目の当たりにし、提案した自分に責任を感じていた。 「いったい何が起こっているのやら…」 その後も、各方面からの情報を共有し、これからの方策を次回練ることとし、解散したのであった。
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