第6章.凶行

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〜セント・ジョン・ザ・ディヴァイン大聖堂〜 回復したミラン・カイザー司教は、医師が止める手を振り切って、聖堂に戻っていた。 懺悔室で人々の罪の告白を聞き、優しく的確に癒していた時である。 その者が入って来た。 その瞬間から、空気のが変わった。 (何だ…これは?) 「神のご加護を。私は神のしもべ、意念も同情も持ちません。どうぞ告白を」 少し間を置く。 格子(こうし)の小さな隙間からは、フードを被った者の性別すら分からない。 「罪を…犯した」 聴いたことのない重たく低い声。 「きっと…これからも沢山の罪を犯すだろう」 (止めて欲しいのか?) 「人は皆、それぞれに罪を背負っています。それを話したいのならば、告白しなさい。後悔しているなら、神に(ゆる)しを乞いなさい。止めて欲しいなら、自分に罰を与えなさい」 「クク…」 「何がおかしいのですか?」 「人…か。確かに皆罪人だ」 「他人(ひと)他人(ひと)、それに目を向けるより、自らを見つめるのです」 「ミラン神父、貴方も罪人か?」 意外な返り討ちであった。 「人としての私は、皆と同じく罪人。司祭としてここにいるのは、その者にあらず、神の…」 「しもべ…か?都合のいい話だ」 言葉を切られる。 (信仰はなしか…厄介だな) 「面倒な客は、どのにもいるものだ。告白、後悔…そんなものに何の意味がある?それに、自らに罰を与えられる者なら、後悔する様な罪など犯しはしない。違うか?」 倫理学的、哲学的な問いに、一瞬間が開く。 「考えた答えなど要らぬ」 (うっ…) 完全に先を読まれていた。 「この国は、大きな罪の上に築かれている」 「あなたのことを、お話しなさい」 何とか平静を装うミラン。 得体の知れない恐怖に、手が震えた。 「クク、怖いか?所詮は人間。神のしもべなどありはしない」 (これは…悪魔か!マズイ…) 何の準備もなく、突如現れた強大な力を放つ悪魔に、対処する(すべ)はない。 「私から見れば、お前は大罪者。そして、それに見合う罰は…」 「グァ⁉️」 心臓に走る激痛。 脈を打てず、全身に冷や汗が浮かぶ。 「死だ❗️」 苦しさに声も出ない。 (クソッ…誰か…) 「ククク。己の弱さを恥じるがいい。神の助けなど、無いと知るがいい」 必死で扉へと手を伸ばすが、力が出ない。 嘲笑いの声を聞きながら… 虚しくも意識が…消えた。 数分後、懺悔に来た若い女性が異変に気付く。 「キャァアアア❗️」 静かな大聖堂に、悲鳴が響き渡った…。
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