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〜5thアベニュー〜
広い交差点は、四方を警官が封鎖し、迂回する車で大渋滞となり、マスコミや野次馬でごった返していた。
紗夜達とアレン達は、渋滞手前で車を諦めて歩き、ほぼ同時に現場へ到着した。
ビニルシートが点在しており、遺体の損傷は見るまでもなかった。
まずは45階のフロアに入る。
途中、それぞれの情報を共有し、ソフィア市長については、偽善者であることと、市長継続の企みはあったにしろ、呪殺の容疑者からは外れ、悪霊との関係も無いと言う結論に至った。
「酷いわね」
「ああ、全くだ。それに、この部屋の距離で走っても、この分厚い強化ガラスを破るなんて芸当はできないな」
鑑識班から入手した写真を、タブレットで見ながら紗夜とアレンが呟く。
「やはり…悪霊か?」
下を見下ろしながら、千尋が尋ねる。
「いえ、知事が殺された頃、アイツはまだソフィア市長の部屋にいたし…霊的なモノじゃなく、もっと強大で邪悪なモノを感じるわ」
美優は、その残り香を感じていた。
「なるほど、彼はここで捕まり、あの壁まで引き飛ばされ、そこから猛烈な勢いでガラス窓へと投げられた…T2ならまだしも、人間には不可能だな」
床に残る尿溜まりと、ひび割れて毛髪が付いた壁を見て、ティークが結論を出す。
「窓から最初に撥ねられた道路までは、軽く20mはある。この強化ガラスを貫いた上でって…どれ程の力なんだ」
スコットが首を振りながら呟く。
「鑑識と検死官泣かせだなこりゃ」
「調書を書くのはあなたよ、アレン」
「げっ💧マジかよ…」
少し先に着いた紗夜が、担当だと思っていた。
「この壊れたスマホだが、T2なら解析できるかもしれない」
写真を見て、紗夜に告げるティーク。
「アレン、彼に送る様に伝えて」
「分かった。ついでに課長に報告してくる」
スマホを取り出し、部屋を出ようとしたところに、スミスから着信が入った。
「課長、丁度今掛けようと思ったところで…」
話を遮られ、聞いているアレン。
「そんな⁉️」
その声に、次は誰が?と考える紗夜達。
まだ終わりじゃないことは、予想していたが、余りにも早過ぎる。
「分かりました、私はここに残り、スコット先輩と紗夜さん達を向かわせます。ハァ…」
溜め息付きで電話を切る。
「神父か…」
初めて会った時から、神父に死相を感じていた千尋。
「どっちの?」
美優にはどちらも考えられた。
「ミラン神父です。聖堂で死んでいるのが発見されたそうだ」
「『イヤ』とか言う死の精霊の復讐か?」
紗夜に尋ねながらティークは、あることが気になっていた。
「現場を見れば、何か分かるかもしれないけど…精霊が復讐心なんて抱くものかしら?」
そこへやっと呼んでいた秘書が現れた。
「質問攻めで、なかなか辿り着けなかった様ね。刑事の紗夜宮本です」
心を読まずとも、想像できた。
「お待たせしてすみません。マテオ州知事の秘書をしていました、カトリーヌ・ハウベルです。突然のことで、どうしたら良いのか…」
(動揺、恐れ、不安…過去形のとこを見ると、もう次の職場を考えてる様ね)
「私はアレン、事件が起きた時、君は…」
「カトリーヌ」
アレンの質問を、ティークが遮った。
壁に掛かった絵を動かしながら。
「はい?」
「同じ質問には飽きただろう。知りたければ調書を見ればいい。それより…殺風景とはいえ、この部屋にこの絵はあり得ない。埃もなく、壁に日焼けの跡もなし…か。まだ新しい様だが、誰からのものだ?」
「えっ?」
事件とは無関係な質問に戸惑う。
「あの知事に、ポール・ドラローシュの名画を飾る趣味はないでしょう。それに…これは『レディ・ジェーン・グレイの処刑』。本物は縦2.5m、横3mだから、このサイズならインテリア用ね」
美優が補足する。
「レディ…何とかの処刑?怪しいな、確かに」
「レディ・ジェーン・グレイよ、千尋。イギリス最初の女王で、わずか9日で政争に巻き込まれ、僅か16歳で斬首刑になった。絵画通じゃなければ買わないし、知ってる者なら、州知事の執務室に飾ったりはしないわね」
「詳しいな」
美優の知識に、珍しくティークが驚く。
「それは送られて来たものです。マテオ知事は何も気にしていませんでしたが…」
「送り主は?」
紗夜がカトリーヌの心に尋ねた。
「えっ?さぁ…調べてみないと…」
「ならいいわ。そんなことより、暫くは大変でしょうから。あっ、ティークさん💦」
勝手に絵を外し、裏蓋を開いた。
「似合わないと言ったのは、これだ」
絵画の裏には、別の絵が隠されており、ティークはスパイアイで透視していたのである。
「なんだぁ?」×2
アレンと千尋がハモる。
白黒で描かれた髑髏。
頭には羽を並べた冠の様な飾り。
2人の第一声から、暫し無言で見つめる。
何とも言えない威圧感。
「少なくとも…いい趣味じゃないな」
写真をT2とTERRAのアイに送るティーク。
隠されていたことで、事件との関わりが匂う。
「どう見ても、ネイティブアメリカンに、関係ありそうね。…どうしたの?大丈夫?」
絵を睨み付け、赤い目を光らせる千尋。
同じ様に、青い目を光らせる美優。
額に浮いた汗が、頬を伝って落ちる。
「紗夜さん。…これはただの絵じゃない❗️とても強い力を持つ、悪魔の紋章」
そこへ、アイから通信が来た。
紗夜のタブレットへ転送するティーク。
「美優様の言う通り、それは古くからアメリカの先住民が恐れ、時には崇める、呪いの悪魔『ヴェガ』の紋章です」
「死の精霊の次は呪いの悪魔?マジか⁉️」
「マジです、アレン様」
色々なものの影響を受け、それなりに進歩している、エネルギー生命体のアイ💧
「スー族には、邪悪の精霊『イヤ』、地下に棲む『ワズィヤ』、魔女の『ワカンカ』という『魔』がいると信じられています。そして、それらの頂点に君臨するのが、最強の邪神『ヴェガ』です。頭の飾りは鷲の尾羽根で、特別の霊力が宿ると信じられ、聖神や邪神と交信できると伝えられています」
「邪神との交信…つまり、呪いね。この絵を贈った者は、ヴェガの力を借りて、州知事を呪殺した」
「さ…紗夜。検死官からの報告だが…」
言葉に詰まるアレンに、注目する皆んな。
「ミラン・カイザー神父の死因は、心臓の破裂…と言うより、握り潰された様だと…」
送られて来た現場写真をタブレットに映す。
「外傷は無い。どうやれば心臓を握り潰せる?ん、待て!2つ前の写真を」
ティークに言われ、戻すアレン。
少し離れた位置から現場を映したものである。
「ここをアップしろ」
「そっちは懺悔室で、遺体は隣だぞ?」
「いいからアレン!」
紗夜に言われてアップし、ボヤけた画像に補正処理を施す。
「まさか⁉️」
「犯人は、ここに…居たのよ❗️」
懺悔室の床には、大きな鷲の尾羽が落ちていた。
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