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カーネギーホールの舞台に、3人の個性的な候補者が出揃った。
「ではこれより90分間、討論を開始いたします。尚、3人の主張への賛否について、客席の皆さんは、ご入場の際に渡したスイッチを押してもらえば、モニターにグラフで表示されます。試しに、今の支持数を見てみましょう。皆さん支持されてる候補者の『Support』ボタンを押してください」
モニターに表示された3人のグラフが伸びる。
そして、ほぼ同じ高さで止まった。
「ありがとうございます。本日は公平にするため、事前に確認したアンケートを元に、支持数が同じになる様に、お客様を調整させて貰いました。この様に、リアルタイムに発言の支持数が表示されます。各発言毎のグラフが表示され、不支持の発言であれば、『Disapproval』のボタンを押してください」
「ほぅ…なかなか面白い趣向だな」
アレンの呟きが聞こえる。
「さり気なく右下に、TERRAコーポレーションのロゴが付いてるわね。さすがラブさん💧」
紗夜の呟きで、一同がそれに気付く。
「では早速ですが、ニューヨークシティの貧富格差の対処について、15分間お願いします」
キャサリンの出したテーマに、真っ先に声をあげるソフィア現市長。
「貧富の格差…として問題視すべきは、ネイティブアメリカンとその他の人々の格差です」
いきなり本題を持ち出した。
「未だに、『ザ・ホール』と呼ばれる地区が存在し、警察でさえも敬遠しています」
わざとキャサリン署長を見て話す。
「真面目に働いても、基準賃金が最初から違うところがほとんどです。まずは彼らに、一定の水準の生活基盤を整備して救済し、街の公平で新たなスタートラインを作ることが必要です」
会場にはネイティブアメリカンは少ない。
しかし、意外にも支持数が大きく伸びた。
「さすがは、『AESC』(アメリカ経済支援センター)のセンター長、いかにも…のご意見」
含みを持たせたメアリスの言葉。
それだけで、支持数が上がる。
「貴女のセンターで働く人達の話は、以前マスコミが取り上げた通り。もっとも、直ぐにあの州知事によって規制されましたが…とても公平さに欠ける扱いです」
一気に支持数が跳ね上がる。
「彼女を推薦しながら、自らのPRに利用したことへの報いね」
「それにメアリスの話は事実だしな。美優さんがセンターで確認して教えてくれたが、言ってることと真逆だ」
警備する警察官達も、討論会は気になる。
紗夜達の裏の呟きも、興味津々で聞いていた。
「メアリスさん。貴女は逆に、ネイティブアメリカン以外の人を、露骨に差別しているじゃないの。一緒に行動していて、危険を感じたくらいよ!」
「おやおや、同じスー族出身が仲違いするには、かなりマズい場所だと思いますが…互いのことより、このシティに目を向けるべきです」
紳士的な笑顔で語りかけるバズミール。
決して驕らず、冷静沈着なこの姿勢こそが、彼をウォール街の玉座に導いた。
「ザ・ホール…については、国からの援助との名目で、ダグラスコーポレーションとTERRAコーポレーションが整備することを計画しています。従って、それは市長選とは無関係な事業。それより、雇用における互いのリスクについて論じた方が、発展的だと思いますが、いかがかな?」
ダグラスとTERRAの提携。
メディア各社は、初耳の新ネタに騒つく。
「彼…うまく2人の窮地を救ったわね」
紗夜の言う通り、観客もTERRAの話題には敏感であり、醜い言い争いは流れ去っていた。
90分の時間は直ぐに過ぎ、各候補はそれぞれの色で、政策を表明し、互いの相違点に激論を交わした。
最初圧され気味だったソフィアも、その実績と経験から出る政策は、畑違いのバズミールと、民族に偏った思想のメアリスより具体的でリアルさがあり、結果はほぼ同じ支持数となった。
「大変お疲れ様でした。白熱した討論でしたが、会場含め逮捕者が出ることはなく、無事に終えることができ、ホッとしています」
会場では笑いが起きるが、本音であった。
目に見えない人知を超えた敵。
備えようもない事態である。
「すみません。少しいいかな?」
終了ムードの中、バズミールが声を上げた。
「はい…勿論いいですけど何か?」
計画していたテーマが減り、予定より早く進んだため、生放送上困っていたところ。
「せっかくの討論会なので、最後に知らせることにしましたが…今回の市長選を辞退しようかと考えています」
「えっ?」
サラッと、笑顔で発言できるものではない。
しかし、それをするのが彼である。
「正直なところ、周りに推されて、成り行きでこうなってしまいましたが、今日のお二人の話を伺い、やはり私が住む世界ではないと感じました」
「そんなこと許されないわよ❗️貴方を市長にと、頑張ってくれている方や、シティの皆さんに申し訳ないとは思わないの⁉️」
当然ながら、ソフィア市長が食いつく。
「それは十分に承知しています。実は先日、諦めていた娘の体調が回復し、これからはもっと寄り添って、一緒に生きていきたいと言う親心に目覚めたのです。TERRAとの提携で事業も新たな局面に向かいます。親として、また企業家として、私のするべきことは、政治じゃないと考えました」
しみじみと話すバズミールに、客席の騒めきも収まってきていた。
「命が…惜しく、 なった」
ポツリと、メアリスが呟いた。
「死ぬのが…怖く、 なった」
何故かは分からない。
その場にいる全ての人、テレビで観ている全ての人が、謎めいた呟きに固まった。
紗夜、美優、千尋の3人を除いては。
(彼女…これは言霊の類い…)
「言霊?」
美優の心の声に紗夜が尋ねる。
「みたいだが、アメリカにもあるのか?」
「言霊は、霊力を持った言葉。それにより、人の心を支配し、思い込ませる厄介なもの」
「あの女、只者じゃないな」
千尋と美優は、最初から気付いていた。
「紗夜さんも、彼女の心は読めないよね?私も彼女の過去も未来も、何も視えない」
「調べてみる必要がありそうね」
舞台袖で、そんな会話が交わされているとは知らず、我に返ったバズミール。
「えっと…何のことかは分かりませんが、私の件はまだ考えているまで、関係者と相談して決めるつもりで、勝手に消えたりはしません。ご安心を」
「そ…そうですよね💦。びっくりしました。では、今夜の討論会はこれで終了します。お疲れ様でございました」
こうして、新たな疑問を生んだまま、閉幕となった。
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