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第7章.呪怨
討論会以降、警察の厳重な警戒態勢は続いた。しかし、目立った事件もなく、選挙活動は極普通に激戦を繰り広げた。
バズミールの辞退は、さすがに周りが許さず、彼自身も分かった上で本音を述べたのである。
不思議なもので、その発言により、彼に興味を持つ人々が増え、支持率は上昇していた。
マスコミは、それを狙った意図的な策略では?と書き立てたが、それがさらに興味を惹くことに繋がるとは、考えてもいない。
一方で紗夜達は、メアリスの身辺や経歴について、ありとあらゆる手を使って調査していた。
余程の証拠か余罪でもなければ、選挙終盤の候補者に近付くことは容易ではない。
市長ともなれば尚更である。
必死で探ったが、分かったことは一つ。
「どうして彼女は、こんなに謎だらけなの?」
「親族は無く、施設育ち。知能が高く、学費免除で大学を卒業し、その先導力で人権団体を設立。今CEOを務める、人材育成企業の先駆けだな」
マンハッタンに構える3つの選挙本部。
明日の投票日を前に、それらを巡回しながら、ボヤきたくもなる紗夜とアレン。
トリニティ協会を過ぎ、ブロードウェイからウォールストリートへ入る頃、T2から着信が入った。
「紗夜です。何か分かったの?」
「ご苦労様だな。バズミールの呪殺サイトの依頼者リストが、やっと修復できたぜ。名前は…」
「名前は、ウィルマ・ディアス。スー族のダコタ系民族に多い女性の名前です。ダコタと言えば、1890年サウスダコタ州ウーンデット・ニーで起きた、アメリカ連邦政府軍による、スー族の虐殺事件が有名ね」
TERRAの月島風花が割り込んだ。
「有名ね…ってお前💦…そうなのか?」
「風花さん…だったかな?良くご存知ですね。不名誉ですが、アメリカ史では有名な事件です。やはり…スー族か」
アレンがT2の問いに答える。
「現在では約4万人のスー族が、いくつかの指定居留地に分散していて、その一部がニューヨークにもいるとか」
後部座席の美優が、風花に負けじと勉強した成果をひけらかす。
「しっかし、お前ら警察ってのは、全く持って理解できないぜ」
「こらチビ鬼!それは…」
「何のこと?千尋さん」
慌てて止める美優を紗夜が遮る。
「署長のキャサリンって女だよ。良く普通でいられるな」
「署長か…確かに彼女は、バズミールの呪殺サイトに協力していたとは思うわ」
「何っ⁉️そうなのか💦マジか⁉️」
鈍いアレンが驚いて振り向く。
「こら!ちゃんと前見て運転しなさい❗️」
「はい💦」
「お前らバカか?そんなことなら、軽く容認できる。殺られたのは悪党ばかりだからな」
「違うの?なに?」
紗夜の反応に、美優と顔を見合わせる千尋。
「まさか。お前ら…いつからだ?クソッ❗️そいつはちょっとヤバいぜ」
千尋の目が赤く光ったその時。
「キキキキキィー❗️」
「うわぁ⁉️」「何なの⁉️痛たた…」
急ブレーキに揺られ、驚く4人。
「あっぷねぇ、何なんだ急に」
車は前車の寸前で、衝突は免れた。
見ると前も後ろも同様で、前方では煙が上がっているのが見えた。
「事故ね、全くこんな時に」
車を降りて走る紗夜。
その紗夜を視る美優の表情が変わった…。
「どうした?」
紗夜の心には入り込めず、過去も視えない。
しかし、僅かな未来だけは視えた。
「そんな…千尋、一緒に来て❗️」
ドアを開けて出て行く美優。
その深刻さにつられて、千尋も追いかけた。
「こら、お前たちは車に…」
既に遅し。
2人は、紗夜とは違う方へ見えなくなった。
「全く…いったいこの街はどうなってんだ」
虚しく呟くアレンだった。
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