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──何でだよ、瑛。
かつては親友と呼んだ男が、顔を歪めている。
瑛の裏切りを責め、罵ってもいいのに。
優しい男は、静かに尋ねる。
──一緒に甲子園を目指そうって言ったのに。何で野球辞めるとか言うんだよ。
そうだ、あれは高校一年生の夏のこと──退部届を提出した帰り、彼に捕まった。
蝉がうるさく鳴く、暑い日だった。
──自分の限界が見えちまったから。
──もう、これ以上は──頑張れねえ。
幼馴染みだからこそ、分かったのだろう。
瑛の言葉に、嘘は無い。
瑛の身勝手さに怒り、憎んでくれれば、まだ救われたのに。
彼は──何も言わず、去った。
瑛は──彼のことが、好きだった。
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