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仮説と一つの解
一応の仮説は立った。
「となると、この時間も無駄ではないのかもしれないな」
そう思って、赤ん坊に心で念じてみた。
ーーー声が聴こえるなら応えてください!お願いします!
しばらく、赤ん坊の無邪気な笑い声が響いた。
今は他の研究員も母親も居ないので勢い自分を客観視してしまい少し照れた。
「ま、そんなわけないか」
そう言葉にした次の瞬間、赤ん坊の瞼が半分落ちてまるで仏像の目の様になり口元は薄く開き微笑んでる様見えた。
後で聞いた話によると半眼半口と言うらしい。
そうして、聞いた事のない言語を話しはじめた。
自動翻訳アプリが作動した。
『良き青年よ、何が知りたい』
僕は口から何か飛び出す程驚いた。
その声は泰然自若として淀みがない。
まるで、なんでも答えられると言うような雰囲気を醸し出している赤児に何を聴いたら正解なのか?
自分が今聴くべき事をぐるぐると考えたが、出てこない。
あ、そうだ。
「生命はどうやって生まれたのですか?」
追い詰められて変な質問をしてしまった。
もっと他に聞くことがあったような気がする。
『生命が生まれた、そう考えるから不思議だと思うのだろう。全てが生命だと知れば、不思議ではない。生まれたのではなく、条件が揃って、目に見える形になった。それだけのことなのだ』
「え?あ、はぁ、なるほど、それでは……」
僕が次の質問を考えている間に赤ん坊はスッと眠りについてしまった。
それから、なんど心で念じてみても、同じことは起こらなかった。
一年程経って赤ん坊と母親はまた秘密裏に帰国して行った。
その頃にはまるで父親になった心境に至っていたので研究とは関係なく惜別の情が沸いた。
それから数年の月日が流れ日々の不毛な研究に忙殺されていると偶にしかあの母子の事を思い出さなくなった。
ただ
未だにあの瞬間を思い出すだけで不思議な胸の高鳴りを覚えるのだった。
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