プロローグ

1/1
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

プロローグ

暗転した客席。舞台だけが、光に溢れている。いつも校長先生が眠くなる話をしている台と同じ場所だとは、とても思えない。コメディータッチに進むストーリーに、目が惹きつけられて離れない。少し年上なだけの彼らは、どうしてあんなにも輝いているのか。 ふと、役者の1人に瞳が吸い寄せられた。その少年は、主人公格の青年の後輩役。細身で小柄な身体。少し長めに伸ばした黒髪が、揺れる度に光が踊る。   ラブストーリーはギャグを交えて進む。主人公の青年は、転びかけたヒロインの少女を慌てて受け止める。見つめ合う2人。 甘い空気が流れる中、彼だけが。内臓を引き裂かれているかのような、生きながら溺れているかのような。そんな、この世の痛みを一身に受けているかのような瞳で、青年を見つめていて。 ああ、この人はもう二度と、その感覚を覚える前には戻れないような恋をしている。 そう一目で感じさせるほどの、性別を越えた激情と苦しみを、その身体に宿していた。 結ばれた2人を祝福する音楽に溢れた舞台で。 彼だけが、立ち尽くしていた。 舞台が、暗転する。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!