13人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
第3話 前髪を掴め!
「えっと…僕を呼んだの、君で合ってる?あっ、君は…」
え…?一年一組の教室から出てきたミハル先輩。サラサラの黒髪に、切れ長の瞳。びっくりしちゃうほど頭が小さい…!けど、わたしが驚いたのは…
「先輩、女子だったんですか?!」
彼が、いや、彼女が、わたしと同じ黒のセーラー服を着てること…!
「ああ、文化祭の舞台で勘違いさせちゃったかな。そうだよ。髪も短いし、一人称も僕だけど、れっきとした女子。」
ああ、すずやかな声が綺麗…!舞台のときよりもずっと高い音。けど、柔らくて澄んだ声質はそのままで、耳にすっと入ってくるのが心地いい。
けど…っ。けど!
「わ、わたしの初恋だったのに…!」
思わずぺたりと座り込んでわたしが漏らしたセリフを聞いて、ミハル先輩は少し俯いた。手をぎゅっと、痛いんじゃないかってくらいに握りしめる。それから、少し屈んで、わたしと目を合わせてくれた。にこりと優しく微笑む。舞台のカーテンコールで浮かべていたような、完ぺきな笑み。…なのに、その笑顔が哀しく見えるのは、なんでなんだろう。
「ごめんね、女子で。それにしても、僕が君の初恋だったなんて、光栄かも。」
へらりと笑うミハル先輩。
ごめんね、女子で。その言葉が、胸をついた。
そのごめんねは、誰に向けての言葉なんですか?って、聞きたくなるような。けど、安易に踏み込んじゃいけないような。そんな壁を感じて。
もっと言えば、女子に生まれてしまったことを、後悔していような。
「あ、あの!」
喉から、勝手に言葉が転がり出る。
「わ、わたしと…」
何言ってるんだろう、わたし。ミハル先輩は女の子で、わたしも女の子。こんなのこと言っても、何にもならない。けど、分かってることがひとつ。
わたしは、ミハル先輩が女の子だったと知っても、彼女に何一つ幻滅しなかった。
「お友達になって貰えませんか!」
考え無しでもなんとでも呼んで。チャンスの女神様は、前髪しかないんだから!
最初のコメントを投稿しよう!