第3話 前髪を掴め!

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第3話 前髪を掴め!

「えっと…僕を呼んだの、君で合ってる?あっ、君は…」 え…?一年一組の教室から出てきたミハル先輩。サラサラの黒髪に、切れ長の瞳。びっくりしちゃうほど頭が小さい…!けど、わたしが驚いたのは… 「先輩、女子だったんですか?!」 彼が、いや、彼女が、わたしと同じ黒のセーラー服を着てること…! 「ああ、文化祭の舞台で勘違いさせちゃったかな。そうだよ。髪も短いし、一人称も僕だけど、れっきとした女子。」 ああ、すずやかな声が綺麗…!舞台のときよりもずっと高い音。けど、柔らくて澄んだ声質はそのままで、耳にすっと入ってくるのが心地いい。 けど…っ。けど! 「わ、わたしの初恋だったのに…!」 思わずぺたりと座り込んでわたしが漏らしたセリフを聞いて、ミハル先輩は少し俯いた。手をぎゅっと、痛いんじゃないかってくらいに握りしめる。それから、少し屈んで、わたしと目を合わせてくれた。にこりと優しく微笑む。舞台のカーテンコールで浮かべていたような、完ぺきな笑み。…なのに、その笑顔が哀しく見えるのは、なんでなんだろう。 「ごめんね、女子で。それにしても、僕が君の初恋だったなんて、光栄かも。」 へらりと笑うミハル先輩。 ごめんね、女子で。その言葉が、胸をついた。 そのごめんねは、誰に向けての言葉なんですか?って、聞きたくなるような。けど、安易に踏み込んじゃいけないような。そんな壁を感じて。 もっと言えば、女子に生まれてしまったことを、後悔していような。 「あ、あの!」 喉から、勝手に言葉が転がり出る。 「わ、わたしと…」 何言ってるんだろう、わたし。ミハル先輩は女の子で、わたしも女の子。こんなのこと言っても、何にもならない。けど、分かってることがひとつ。 わたしは、ミハル先輩が女の子だったと知っても、彼女に何一つ幻滅しなかった。 「お友達になって貰えませんか!」 考え無しでもなんとでも呼んで。チャンスの女神様は、前髪しかないんだから!
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