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閑話 1 守りたいだけだよ
『わ、わたしと、お友達になって貰えませんか!』
白い頬を真っ赤に染めて、僕にそう言ってくれたあの子。揺れる茶色い1つ結び。少し大きめの胸。
可愛かったなぁ…。
そんなことを考えていると、凛ちゃんが、
「あんまりぼんやりしてると、階段踏み外しちゃうよ?」
と面白そうに言ってきた。
「失礼だなぁ。ちゃーんと足元は見えてるから。心配してくれてありがと。」
見破られた照れから、皮肉たっぷりにそう言い返すと、彼女はクスクスと笑って僕を上目遣いで見る。
「結局、あの子とお友達になるんだから。あの様子じゃ、覚悟しといた方がいいんじゃない?」
口元に人差し指を立て、やたら楽しそうに言う凛ちゃん。
「やだなぁ、あの子はまだ中3だよ?それに、僕は付き合ったりしないよ」
流石に、あの菜々香ちゃんの様子を見て勘づかないほど鈍感じゃない。けど、彼女にそんな残酷なことをしてやれるほど余裕のある人間じゃないんだよね、こちとら。
「ほーんと、変わったよね、みはるん。前はもっと一生懸命で、可愛かったのに。」
「もう、流石に現実見えてるよ」
「変わっちゃったよね」
「……」
部活の終わった放課後。僕たちの他には誰もいない。静まり返った校舎は、僕たちにとってはお馴染みの光景だ。
「変わったんじゃないよ。成長したの。」
薄く笑ってそう返すと、凛ちゃんは、全てを見透かすような、目元の笑ってない笑顔でこちらを見た。
「わたしには、逃げてるだけに見えるよ。」
「………そうかもね」
「それに、みはるんがあの子と別れたのも、中3のときじゃん。」
菜々香ちゃんと、同い年でしょ?
そう言って、凛ちゃんは静かに笑う。僕の答えなんて、最初から欲しがっていないみたいに。
「僕は先輩なんだから。後輩をダメにするなんて、しちゃいけないよ。ほら、前途ある若者のためにね?」
冗談交じりにそう言うと、ふーん、とだけ言って、彼女は前を向いた。
「…みはるんが今、あの子をどんな風に思ってるのか知らないけど」
瞳だけ、こちらを向く。得体の知れない、黒い色っぽい瞳。
「そろそろ、忘れてもいいんじゃない?」
その中には、たぶん優しさがたっぷり。
ふふ、と笑いが漏れた。相変わらず、はっきり言えないのだ、彼女は。
「そうだね、善処するけど。たとえ忘れられても、結論は変わらないよ」
あの時の、彼女の瞳。千花の、異端のイキモノを見る目。
たぶん、あの可愛い少女を、あの目から守るためなら何でも出来るくらいには、あの一瞬で、僕は彼女に惚れてしまった。
それはきっと、彼女にとっては残酷だ。
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