第5話 どうして

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「え、その肉巻き、すっごい美味しそうですね!中、何入ってるんですか?なんか白い…大根とか?」 「いや、これは山芋が入ってるんだよ。シャクシャクしてすっごく美味しいんだ〜!1番お気に入りなんだよね!」 す、すっごい盛り上がってる…! 先輩のお弁当がとっても美味しそうで色々聞いてたら、ものすごく話が弾んじゃった!う、嬉しい! 「これ、お母様が作ってるんですか?」 「そうだよ。毎朝作ってくれるんだ。ほんと、ありがたいよね」 「お母様を大切になさるなんて、流石は美晴先輩ですね!」 「あははは、何それ〜」 いつものキリッとした表情もかっこいいけど、たまに見せる柔らかくってほわほわした笑顔もすっごく可愛くて…! 恋するしかないじゃん、これ! 「えへへ〜!美晴先輩とお友達になれて、本当に良かったです!」 そう言うと、美晴先輩はぴたりと止まった。 「う、うん、そうだね…」 目がキョドキョドしてる。ど、どうしたのかな…? 「み、美晴先ぱ……」 「え〜、何それ〜!」 「マジ、ありえないよね〜!」 「私でもやだ〜!」 わたしが美晴先輩にかけようとした言葉は、向こうから歩いてきた女の子たちの笑い声にかき消された。 「はる先ぱーー」 「ごめん」 そう一言、先輩は呟いた。見ると、唇が震えていた。青ざめた顔。中身がまだ入ったままのお弁当を巾着に詰め、立ち上がる。 黒いハンサムショートが揺れる。スニーカーを履いた先輩は、こちらに背を向けて、 走り去ってしまった。 「え、」 なんで…? 名前を呼ぼうとしても、音にならない。 サッカー部の昼練の声が聞こえる。 わたしはベンチに座ったままで、あっというまに見えなくなった先輩の方向を、馬鹿みたいにぼんやりと見ていた。
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