第6話

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第6話

実は1度だけ、彼女を見たことがあった。 うちの学校は進学校だ。高校生は、週4で7時限目がある。中学生は基本的に6時限までだから、6時限目休みには、下校する中学生を校舎から眺めることが多かった。 その日も同じ。演劇部関連の用事で2階に来てた僕は、中学生たちを眺めていた。 あの子は中学演劇部の子。あの子は、同級生の弟。そんなふうに、中学生を観察。 ゆるゆるとした午後を過ごしていると、植木のそばに、1人の女の子が立っていた。 その子は一生懸命にホースを引っ張って、植木に水をやっている。茶色い1つ結びが、ゆらゆらとひっきりなしに揺れる。水やり当番みたい。けど、水やりは普通6人くらいのグループでやるんだけどな。 …もしかして、押し付けられたのかな。 手伝いに行った方がいいかもしれない。授業に遅れたって、少し謝れば済む話。 そう思って、2階のバルコニーから声をかけようとした時。 黒いボブヘアーの女の子が、茶髪の女の子に駆け寄った。彼女は、じょうろを持って手伝い始める。ボブヘアーの少女は、少し怒った様子で1つ結びの子を窘めている。えへへ、と、困ったように笑って、茶髪の女の子はもじもじした。 …大丈夫みたい。 僕はそう思って、彼女たちを眺めていた。賑やかにおしゃべりしながら作業する彼女たちを見るのは、思いの外楽しかった。 1人でも、植木に水をやっていた少女。 彼女が、記憶に残っていた。
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