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「私、彼氏できた!」
「ぇ……」
炎天下の遊園地、昼下がりのフードコート。日除けパラソル付きの円卓の向かいで、幼馴染の夏海が笑う。
私の声がパラソルの作った日陰に染み込む。園内のお化け屋敷でひとしきり叫んだ後の掠れた声。
…なにかが引っかかったような、そんな声。
「…ぇ、え〜!お、おめでとう!」
大切な親友の喜ばしい報告、華々しい話。
朝から気合を入れ、時間をかけてメイクした目元を歪ませて私は笑う。めいっぱいの笑顔を返してあげなくちゃ。
「ありがとー!葵はどうなの?気になる人とかできた?」
メロンソーダを飲みながら笑顔を浮かべた夏美。
彼女の美人さを際立たせるナチュラルメイク、涼し気な青のシアートップス。女友達と遊ぶ休日の姿、その全てがいつも通り。
メロンソーダは夏美の好物だった。ここの遊園地のフードコートでは必ず頼む。私もつられてそれをよく飲んでいた。
「ぇと、まだ…かな?」
向かい合う2つのメロンソーダに、夏の陽射しが青く光る。
メロンソーダの青い泡がふわふわ、ふらふら。
「私ね……」
続けざまに出そうになった言葉をひとつ、私はグッと抑え込んだ。
「……」
俯き、メロンソーダを見つめる。
「…じゃあ来年からは彼氏と遊園地に来なよ?」
「えー、なんでよ!」
「お金だってかかっちゃうでしょ?高校生だし余裕ないし!」
「いや、バイトすればなんとか…」
「私たち来年3年生だよ?受験でそんな余裕は…」
「むむむ…」
考え込む夏海を見て、ふっと笑みがこぼれる。夏海が悩むときは真剣な表情をするから、どれだけ想っているかが伝わってくる。
私は…それだけで嬉しかった。
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